【森永卓郎の本音】安全で有利な投資対象は日本円のキャッシュ

2週間前、私は「投資依存症」を上梓(じょうし)した。8月以降続く株価の乱高下はバブル崩壊という大地震の前震であり、最悪の場合、いまの投資は9割減価するリスクが高いと警鐘を鳴らす本だ。
本自体の売れ行きは1週間で増刷が決まるなど好調なのだが、驚いたのはネットでの読者評価が5と1に、完全に二極化したことだ。もちろん、1をつけた人の主張は、「これからも右肩上がりの株価が続く」というものだ。気持ちは分からないではない。賃金が上がらず、将来不安が高まるなかで、投資に賭ける以外に希望がないからだ。それに、評論家や政府までもが長期、分散、積立の三原則を守れば、高利回りが期待できると言い続けている。
しかし、米国の一半導体メーカーに過ぎないエヌビディアの時価総額が、日本のGDPに匹敵するところまで値上がりしたこと一つとっても、いまの株価がバブルであることは間違いないだろう。17世紀以降、これまで人類は70回以上の大きなバブルを経験してきた。そのバブルは、例外なくはじけている。
いつ、どれだけ下がるのかを正確に予測することはできないが、少なくとも老後資金を投資で増やそうとするのは、汗水垂らしてためた資金をギャンブルにつぎ込むのと同じだ。ただ、7月の株価大暴落の後、新NISAの口座が、大幅な買い越しになった事実が明らかになった。負けたときにさらに大きな金額をつぎ込むというのは、ギャンブル依存症の典型的な症状だ。
全損になっても生活に影響しない範囲でやるなら、ギャンブルをやっても良いと思うが、全財産を投じれば、破滅が待ち受けている。私は、いま最も「安全かつ有利な投資対象」を聞かれた時には、迷うことなく、「日本円のキャッシュ」と答えている。(経済アナリスト)

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