[社説]日本人児童刺殺 中国は責任ある対応を

中国広東省深〓で日本人学校の男児が、男に腹部を刺され死亡した。幼い子どもを襲撃することなどあってはならず、凶行に怒りが湧く。遺族の悲しみはいかばかりか。
事件は18日朝起きた。男児は日本国籍。日本人学校へ母親と歩いて登校中、校門から約200メートルの通学路で刺された。
駆け付けた警察関係者により現場付近で容疑者の男(44)が拘束された。地元紙によると、男は単独犯で容疑を認めているという。中国当局は動機や背景の解明に全力を挙げてほしい。
中国では6月、江蘇省蘇州でスクールバスを待つ日本人母子が、男(52)に刃物で切り付けられる事件が発生したばかり。母子が負傷し、男を止めようとした中国人女性が死亡している。
両事件はいずれも日本人学校の近くで起きた。
深〓の事件が起きた18日は満州事変の発端となった柳条湖事件から93年に当たる日だ。中国では「国辱の日」とされ、関連行事が各地で開催されていた。事件の背景に反日感情がある可能性はないのか。
この間、中国側から詳細な情報は伝わってこない。主要メディアは公式発表を報じる程度。中国政府も捜査中であることを理由に詳細を明らかにしていない。
6月の事件を受け各地の日本人学校では警備を強化している最中だった。
もはや学校の対策だけでは不十分だ。抜本的な再発防止策を講じるためにも中国は積極的に情報を開示すべきだ。
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蘇州では4月にも日本人男性が面識のない男に切り付けられる事件が起きた。
両地域ともに治安が良いとされ、相次ぐ事件に日本人社会の不安が高まっている。
今回の事件の容疑者は2015年と19年にも公共通信施設を破壊した容疑などで身柄を拘束されたことがあるという。
中国では不動産市場が低迷。景気や雇用悪化など閉(へい)塞(そく)感が広がる。そうした中、社会への不満が在留邦人に向けられているとしたら看過できない。
中国に長期滞在する日本人は今や10万人を超え、国別ではアメリカに次ぐ。歴史認識や尖閣諸島問題などを巡り関係悪化が続く日中両国にとって人的・経済的な結び付きは特に重要だ。
事件を受け、中国への進出や社員の派遣をためらう日本企業が出ていることを中国側は重く見るべきだ。
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在留邦人の安全確保へ日本側の対応も求められる。
外務省は来年度予算の概算要求に日本人学校のスクールバス警備費を計上した。ただ、子どもの被害が相次いでいることを考えれば直ちに対策を取ってほしい。
事件を巡り中国のSNSでは「(日本人学校では)スパイを養成している」などデマが流されている。日本でもことさらに中国を敵視する投稿が目立つ。
憎悪は憎悪を呼ぶ。再発を防ぐためには、互いの敵対心をあおるのではなく、日中両国が対話を重ね相互理解に努めるべきだ。
※(注=〓はへんが「土」でつくりが「川」)

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