ヤマト運輸“一人スト”男性が現状報告 「窓はあくようになった」それでも熱中症“危険”指数変わらず

先月19日、熱中症対策を求めヤマト運輸に対し一人ストライキを行った社員の男性(Aさん)が、9月20日都内で記者会見を開き、ストライキ(1日)後から1か月を経た現状を報告した。
会見にはヤマト運輸の関西にある倉庫で働くBさん(男性)もオンラインで参加し、倉庫内の過酷な労働環境を改めて訴えた。
男性が“一人スト”を行った経緯連日猛暑が続いた今年の夏。兵庫県内のヤマト運輸の倉庫で正社員として働くAさん(55歳)は、先月19日、同社に対し倉庫内の熱中症対策が不十分だとして改善を求め、ストライキを決行した。
Aさんが働く倉庫では、今年、最大40度まで計測できる気温計が振り切れ、熱中症指数が「危険」を指している日もあったという(ヤマト運輸側は団体交渉時、気温計は故障していたと主張している)。また、建物の構造上、風通しが悪く、倉庫の外壁は金属パネルで熱を持ち、窓もさびによって半分程度しか開かない状態だった。
それでも、ストライキ前に実施されていた熱中症対策は、塩あめの配布と、業務用扇風機1台、スポットクーラー2台、ウォーターサーバーの設置のみだった。
Aさんは労働組合に加盟し、ヤマト運輸側と団体交渉を実施。その結果、Aさんの働く倉庫に業務用扇風機とスポットクーラー2台が追加導入され、さびついた窓についても修繕が約束された。しかしAさんは、あくまで全社的な熱中症対策が必要だとしてストライキに踏み切った。
ヤマト側がスト以降対応したことは?Aさんがヤマト運輸側に要求していたのは、以下の5点。
①倉庫内でつけっぱなしにすることで温度上昇をもたらしている配達車のエンジンを可能な限り切ること。
②倉庫内の温度・熱中症指数を記録、管理すること。
③ファン付きウェア、首に巻く扇風機、スポーツドリンクなどの支給および通風、または冷房設備の充実。
④労働者の健康状態の確認、安全衛生教育の実施、応急処置の流れの共有をすること。
⑤全社的な熱中症対策の実態調査。
会見でAさんは、ストライキ後に改善された点について報告を行った。それによると、5点のうちストライキ後にAさんの働く倉庫で改善されたのは①のみ。また、団体交渉時に約束していた、さびついた窓の修繕については実施されたという。
「半分しか開かなかった倉庫の窓は開くようになりました。また、倉庫の中では車のエンジンを切るというルールができ、温度はかなり下がりました。ところが、相変わらず(倉庫内の温度は)34~35度。熱中症指数は常に危険を指している状態が当たり前になっています。倉庫内の熱中症対策まだ万全ではないと思います」(Aさん)
「仕事中に手足をつるのが日常化」倉庫作業員の実態また、会見にオンラインで参加した関西の倉庫で働くBさんはニュースで(Aさんが行った)ストを知り、ヤマト運輸の後ろ向きな対応に疑問を持ち、この度声を上げたとして、倉庫作業員の労働実態を次のように訴えた。
「私の事業所でも40度以上になることが多く、(Aさんのストライキ後である)8月22日になっても40度に達していました。送風機やスポットクーラー、あめやスポーツドリンク、窓を開ける、車のエンジンを切るといった対策はやってるものの、それでは全然カバーしきれないぐらいの暑さでした。
私自身、仕事の翌日に動けなくなり、病院を受診し熱中症の診断を受けたことが昨年と今年2回あります。仕事中に手足をつることや、気分が悪くなることは日常化しています。このような職場では、品質管理にも影響が出かねません。ヤマトには実態を真摯に受け止めて、施設の空調設備(の改善)、(屋根に)断熱塗料を塗るなどの前向きな対応を検討していただきたいと思っています」
職場における「熱中症相談」100件以上男性を支援する個人加盟型の労働組合「総合サポートユニオン」の荻田航太郎氏は、先月より実施していた「熱中症ホットライン」およびオンラインアンケートに100件以上の相談が寄せられたとして、特に悪質な事例を公表した。
「倉庫の冷房が壊れたが、新しい冷房が設置されなかった」(物流・倉庫作業)
「昼間は(工場内が)42度にも達する。気温計を見せて企業に対応を求めたが、何も改善されない」(製造業)
「朝から30度を超え、日中は34度以上になる。湿度も65%以上に達する。熱中症対策は扇風機と冷風機のみ。上司に相談に行っても、辞めるなら辞めていいと言われる」(物流・倉庫作業)
「口では気をつけてと言うが、配達は終わらせろと言う。職場に昼に帰ってきた社員が、頭がいたく発熱してきたと言って(家に)帰ったが、翌日亡くなった。職場は熱中症について検討せず、コロナの可能性もあったと責任を感じていない」(運送業・配達)
荻田氏はこうした事例を受けて「多くの企業が安全対策にコストをかけていない」と指摘。さらに日本の過酷な働き方、労働規律の高さが職場での熱中症問題を深刻化させていると訴えた。
さらに、気候危機の高まりとともに、労働環境における熱中症は深刻な社会問題になっていくとして、「来年以降も、企業に対して熱中症対策を実施するよう呼び掛けていきたい」と語った。
「総合サポートユニオン」では、熱中症に関する労働者向けの無料相談「熱中症労働相談ホットライン」を9月22日、23日の午後1時~5時に開設する。電話番号は0120-987-215。

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