発想は有名映画の「タイムマシン」“水素”が失われた30年を取り戻す? 秘密はアルミくず【チャント!大石邦彦が聞く】

脱炭素社会の切り札として、大きな期待がかかる「水素」。地球上に無尽蔵に存在し、エネルギーとして使用しても二酸化炭素を排出しないことから、化石燃料に代わるクリーンエネルギーの大本命と言われている。その水素の“ある画期的な製造方法”で、世界から熱視線が注がれている企業があると聞き、富山県高岡市に向かった。
田んぼに囲まれた町工場。一見すると、ここに最新の水素製造機器を開発した企業があるとは思えない。ベンチャー企業のアルハイテック代表取締役の水木伸明社長(64)を直撃した。
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紹介してくれたのは、縦横1.5メートルほどの四角い箱。これが2022年に発売された水素製造装置で、世界を驚愕させたマジック装置だ。一般的に水素を製造するには、石油や天然ガスなどの化石燃料が必要で二酸化炭素が排出されるが、ここで使われるのはアルミくず。
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アルミニウムの製造過程で工場から排出される端材だ。そこに“ある反応液”を混ぜると、水素が発生するという。しかも、二酸化炭素は出さず、同時に資源として使える水酸化アルミニウムを作り出すこともできるのだ。
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例えば、9キロのアルミくずから1キロの水素を作りだすことができ、しかも26キロの水酸化アルミニウムという副産物も生み出す。1キロの水素があれば、電気自動車で約180キロの走行が可能だ。また、水酸化アルミニウムは燃えにくいという性質から建物の壁材や壁紙などにも使われたり、電気を通しにくいことから電線の被膜や半導体にも使われたりする貴重な素材だ。
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ポイントは、アルミくずを水素に変える反応液。しかし、これは企業秘密で、それまで饒舌だった社長も黙して語らず。発想は、1980年代の大ヒット映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアン号というタイムマシン、夢の乗り物に遡る。家庭ごみを直接燃料に変えて車が走り回る様は、まさに未来のエネルギー社会そのものに社長には見えたのだ。私も、その映画を何度も見たことがあるが「タンクの中にアルミくずを入れ、水素というエネルギーが作られ、車が走る」。
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まさに、あの映画に近い社会ではないだろうか。タイムトラベルこそできないが、水木社長は実写版のドクことエメット・ブラウン博士ということか。
この水素製造装置に、まず目をつけたのが日本政府だった。「クリーンなエネルギーを地産地消する水素発電システム」を開発したことが評価され、2014年から補助金などでの支援が始まり、今や企業などとも交渉が進み実用化は目前だ。
そんな中、去年 岸田総理の中東歴訪に水木社長も同行することになった。訪れたのは、アラブ首長国連邦(UAE)。水木社長は、随分と場違いな所に足を踏み入れたと感じていた。なぜなら気づけば、岸田総理、アラブの石油王としても知られるUAEのムハンマド大統領、そして水木社長の3人で意見を交わしていたからだ。
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国王は真剣な眼差しで社長の言葉に耳を傾けていたというが、それにしても、なぜ石油大国のUAEが水素に大きな興味を示しているのか?そこには、ある大きな理由が…
石油や天然ガスが豊富な中東にとっては、世界的な脱炭素の流れは、将来的には石油などの需要減少に繋がる。つまり、世界の潮流は中東にとってはマイナスでしかない。だからこそ、なるべく早い段階で“石油依存経済”からの脱却を図ろうと考えているのだ。
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現にUAEでは、2050年までの温室効果ガス排出量ゼロを目標に掲げ、日照量が豊富な地理的優位を活かした太陽光などのクリーンエネルギーの導入が進んでいた。そこに水素が加われば、さらに石油依存からの脱却に拍車をかけられると考えているとみられる。
エネルギーを輸入に頼る日本以上に、自国の大きな武器として石油や天然ガスという化石燃料にのみに頼ってきたUAEは、新たなエネルギーの確保には積極的なのだろう。だからこそ、国のトップが岸田総理とともにとうしても会いたかったのだ。次世代エネルギーの水素を、いつでもどこでも製造できる装置を世に送り出した水木社長に。
今は、UAEをはじめアメリカ、オーストラリアやインド、ヨーロッパ諸国など世界中の国々が導入を検討しているようだ。
ちなみに、水木社長は開発前までは営業や総務で手腕を発揮してきたサラリーマンで、化学や物理などとは縁遠い経歴だった。しかし、それがこの水素製造を可能にしたという。アルミに関しての知識がなかったからこそ、先入観なく考え、多くの人に批判されても恐れず、水素を製造する方法に辿り着くことができたのだ。
開発した後、還暦を過ぎた61歳で取得したものがある。それは「工学博士」という肩書きだ。これまでの開発を論文にまとめ、学術的にも認められたことは、各企業や各国との交渉にも役立っているという。
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富山の町工場の開発を目の当たりにして思うことがある。日本企業の発想は独創的で、しかも技術力が高い。しかし、これらを活かしきれなかったことも、日本経済の失われた30年に繋がっているような気がする。
このメイド・イン・ジャパンの技術をいかに守り、世界へ向けて発信していくのか。この水素製造においては技術流出を防ぎつつ、世界をリードしてほしいものだ。日本が失ったものを取り戻すためにも。【CBCテレビ「チャント!」アンカーマン 大石邦彦】

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