海上保安庁の新たな砕氷巡視船が2024年9月2日、横浜で進水しました。老朽化が著しい現用船の代替として、待望されています。
海上保安庁第三管区海上保安本部は2024年9月2日、砕氷機能を備えたヘリコプター搭載型巡視船「そうや」が、JMU(ジャパンマリンユナイテッド)横浜事業所磯子工場で命名進水したと発表しました。
同船は、現用巡視船「そうや」の代替船で、引き続き艤装工事などを行い、2025年度中に海上保安庁へ引き渡され、就役する予定です。就役後は北海道の周辺海域を担当する第一管区海上保安本部に配備され、冬季は海氷海域での航路啓開や海難救助といった任務に従事します。
現用船ボロボロで海上保安庁が熱望! ヘリ搭載OKな「砕氷巡視…の画像はこちら >>2024年9月2日、JMU横浜事業所磯子工場で進水した新型の砕氷巡視船「そうや」(画像:海上保安庁)。
新型「そうや」は、老朽化が進む既存船の代替として、2021年度の補正予算で建造が計画された大型巡視船です。船体サイズは全長約100m、幅約16.4mで、ヘリコプターを1機搭載できる「PLH型」となります。速力は20ノット(約37km/h)以上の発揮が可能です。
冬季に海氷海域で航行することを想定し、鋭角の砕氷型船首を採用するとともに、ヘリコプターの発着スペースを確保するため、船尾形状はオーバーハング型になっているのが特徴です。
総事業費は約154億円で、最新鋭の巡視船として昼夜問わず取り締まりや監視活動が行えるよう、各種能力が向上しています。30mm機関砲や遠隔放水銃を備えるほか、船橋には遠隔監視採証装置や停船命令等表示装置を装備。また、複合型ゴムボートと高速警備救難艇も搭載しています。
置き換え予定の現用「そうや」は、今から50年ほど前に日本鋼管鶴見造船所(現JMU横浜事業所鶴見工場)で建造され、1978年11月に竣工しています。EEZ(排他的経済水域)200海里時代に備えた新海洋秩序対応体制の整備の一環として計画されたPLH(ヘリコプター搭載巡視船)の1番船で、冬季オホーツク海などの海氷海域における事案対応を考慮した砕氷能力を持っています。
しかし「そうや」の船齢は40年を超え、2012年度に実施した延命工事からも12年以上が経過していることから、経年による老朽化が著しく進行し、船内各所で故障・不具合が多発していました。
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北海道の釧路港を母港に運用されている現用の巡視船「そうや」。すでに就役から45年以上が経過している(深水千翔撮影)。
特に海氷海域を航行中に深刻な故障が発生した場合、業務遂行が困難になるだけでなく、極寒の海氷海域に閉じ込められ、乗組員等の生命の危険に直結する事態となることから、新たに砕氷能力を持つPLH型巡視船を整備する必要がありました。
オホーツク海を覆う海氷は、船舶の航行や漁船の操業を阻む障害です。海上保安庁では、こうした北海道周辺海域での安全を守るため、海氷観測を実施し船舶に提供していますが、漁船が海氷に閉じ込められて身動きが取れなくなり、救助に向かうという事例も起きています。
能力を向上させた新たな「そうや」が、航路の安全確保と領海警備を担う「北の守護神」として、万一の際は活動することになります。より高性能な砕氷巡視船の就役、今から期待できるでしょう。