なぜ今、マニュアル専用車なのか! ホンダ「シビックRS」開発陣に聞く

ホンダのマニュアルトランスミッション(MT)専用車「シビックRS」が2024年秋に発売となる。2023年の「東京オートサロン」でお披露目となり、クルマ好きの来場者から熱い視線を集めていた1台だが、ご時世を考えるとMT専用ってどうなの? ホンダの開発陣に聞いてみた。

MT比率は上がっている?

シビックRSは「シビック」の6段MT専用グレード。自動運転や電動化が進みつつある今、あえてMT専用グレードを追加する理由とは。

商品企画を担当した商品ブランド部の佐藤大輔氏によると、現行シビックの販売比率はハイブリッド車(e:HEVモデル)が6割、ガソリンエンジン車が4割といった感じ。ただ、ガソリン車を購入する人がMTを選ぶ割合は、以前の34%から58%へと一気に上昇したそうだ。実は、MT比率は上がっている。

ユーザーの意見を聞いてみると、理由は大きく3つあるという。以下の通りだ。

現状の電動化の流れに不満や不安があり、MTモデルに将来的に乗れなくなる可能性も考慮して、今のうちに乗って走りを楽しみたいというユーザーがいる。
現行シビックMTモデルのシフトフィールが非常に好評で、運転して楽しい(だけど、6MTの回転落ちの遅さが気になるとの声も)。
「タイプR」が欲しいけど簡単には手に入れられないし、もう少し街乗りや公道でスポーツ走行ができるクルマが欲しいというユーザーがいる。

これらの意見を集約し、サーキットで最高の性能を発揮する「タイプR」のDNAを受け継ぎつつ、“街乗り最高スポーツ”を追求したMT専用のRSを開発・投入することにしたそうだ。納得である。

ところで、RSって何の略?

ところで、ホンダ車で「RS」といえば「ロードセーリング」の略なのだが、今度のシビックRSもその理解で大丈夫なのだろうか。シビックシリーズの開発責任者である四輪開発センターの明本禧洙氏は「RS」の名称について、50年前のシビックRSから引き継いだことは認めつつも、当時使用していた「ロードセーリング」という言葉を一度も使わなかった。それはナゼなのか! ご本人の回答は以下の通りだ。

「50年前の、50馬力程度のシビックの時代は、ハイウェイを悠々と走りたいという目的のために排気量を上げ、馬力を上げてというのがRS(=ロードセーリング)だったんです。それから20年~30年くらいは意味があって、役目を果たしてきたのですが、現代においては、軽のN-BOXでも、ハイウェイを120km/hで悠々と走るのは簡単です。というわけで、RSの定義づけをそろそろ考え直すべきかな、とは思っています。ただ、開発の最初からRSのバッジを付けようと計画していたわけではなく、普遍的に走る喜びを追求したモデルであることは共通しているので、50年を迎えるシビックRSということもあり命名したんです」

「シビックRS」に盛り込んだ技術は?

シビックRSの開発に際しては、現行型シビックのMTモデルで気になるポイント(エンジンの回転落ちの遅さなど)について、「最新の技術を入れれば治せるのでは」と考えたそう。もっとスポーティーなクルマにしたいとの思いで開発を進めたという。

車体研究開発責任者である四輪開発センターの高田直樹氏によると、具体的には「タイプR」と北米向けスポーツグレード「シビックSi」で好評を得た機能の「レブマッチ」や「ドライブモード」の追加、慣性モーメントを30%軽減したシングルマスの軽量フライホイールと素早い回転落ちを実現するエンジン制御、軽快で一体感のあるハンドリングのためのステアリングトーションバーレートの60%アップ、剛性と初期入力の応答性をアップして接地感あふれる旋回フィールを実現するRS専用のサスペンションシステム、16インチ化によって大径化したブレーキなど、走りのために手を入れたところは多数あるとのことだ。

話を聞いていると、この「RS」の意味、タイプRの「R」とSiの「S」の頭文字をくっつけたものとも考えられる。

エクステリアでは、サイドから見た時に違いがわかるシャープになったフロントノーズ形状(「ニュー爽快フェイス」と名付けられた)、専用ブラックのホイール(ナットも)、前後に取り付けた赤のRSバッジなどで差別化を図った。インテリアはエアコン吹き出し口に赤の縁取りを施して違いを出している。

このようなとんがったモデルを世に出してくれる自動車メーカーはだんだんと少なくなってきた。ターゲットユーザーは20~30代の「クルマ好きミレニアル世代」とのことだった。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。 この著者の記事一覧はこちら

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