[社説]米兵事件公表せず 不信もたらす「隠蔽」だ

県民の命や安全に関わる情報が隠されていた事実が次々と明らかになっている。
ことし5月、本島中部で女性に性的暴行を加えてけがをさせたとして、不同意性交等致傷の疑いで県警が米海兵隊員を逮捕し、6月17日に那覇地検が起訴していたことが分かった。
昨年12月に起きた米空軍兵による少女誘拐暴行事件は、3月に起訴されていたことが6月25日に明らかになったばかりである。
いずれの事件も、起訴後も県には一切連絡がなかった。 米兵による重大事件・事故については、1997年の日米両政府の合意で「迅速に現地の関係当局へ通報する」とされている。政府や米軍は防衛省沖縄防衛局を通じて県に通報する仕組みだが、2件とも沖縄防衛局に連絡がなく、県にも通報されなかった。日米両政府が合意した取り決めが機能していない。
林芳正官房長官は、今回の事件は通報基準に該当するとしながら、被害者の名誉やプライバシーを考慮したため県に通報しなかったと釈明した。だが、被害者のプライバシーを守りながら県への情報提供は十分できたはずだ。
そもそも米軍犯罪に関する情報は公共性、公益性が高い。県民の安全を守る立場の県に情報がなければ対策が取れない。12月の事件後すぐに情報共有されていたら、子どもたちに注意喚起できたはずだし、5月の事件を防げたかもしれない。
■ ■
2事件の発生から起訴、発覚までの半年間には、日米両政府にとって重要な政治日程がめじろ押しだった。昨年12月には辺野古新基地を巡る代執行訴訟があり、今年4月には日米首脳会談、6月16日には県議選があった。
県議選では新基地建設を巡って対立する与野党が激しく競り合った。県議選前に事件が明らかになれば反基地世論が盛り上がり選挙結果に影響が出ると恐れたから、県に通報しなかったのではないか。
海兵隊員が起訴されたのは県議選翌日の6月17日だった。
林官房長官は「県議選が対外公表の判断に影響したという指摘は当たらない」と否定したが、この間の対応は、政治的意図を持った隠蔽(いんぺい)だと思われても仕方がない。
林氏は米側からの通報後の対応について「個別具体的な事案の内容に応じて適切に判断している」とも述べている。そうであればそのつど、どのように判断したのかを明らかにするべきだ。
■ ■
内閣府男女共同参画局のホームページには「同意のない性的な行為は性暴力であり、重大な人権侵害です」と記されている。
5月に与那国を訪問したエマニュエル駐日米大使は「重大な人権侵害」を知りながら、自衛隊と米軍の連携をアピールした。
27日に県庁を訪れたマシュー・ドルボ在沖米総領事から被害者や県民への謝罪の言葉は聞かれず、「コメントはない」とだけ語った。
これはあまりにも異常な事態である。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする