東海道五十三次の県内にある地点ごとに注目のスポットなどを取り上げる企画(随時掲載)の今回は、県内8番目の「江尻宿」。富士山の眺望地として知られ世界文化遺産に登録された三保松原(みほのまつばら)。絶景を楽しむために訪れた現地で、別の一面を知ることになった。
富士山、松、白波が織りなす絶景を見たところから一転、熊手を片手にせっせと地面の松葉をかき集めていた。行動に至ったのは、ある施設を訪れたことが大きい。三保松原を「五感で感じる」をテーマに、2019年に開設した静岡市三保松原文化創造センター「みほしるべ」だ。
この地の歴史を知り、学びを深める展示がされている同館が「松原の保全活動」を行っていることに驚いた。学芸を担当する小林美沙子さん(38)は「自然の景色などは、人の手が加わっていない印象があるかもしれませんが、三保松原は人の手で守られてきたもの」と説明した。当地の松林の歴史は長く、室町時代の絵図でも確認された。当時は、三保半島全域を覆うように茂っていた。だが、現在は沿岸のみ。当時の清水市が1988年度に行った調査では樹高3メートル以上の松は約5万本あった。また2016年に行った調査は手法が違うが、直径3センチ以上のもので約3万本。減少しているのがわかる。
松は栄養が少ない海辺の環境でも育つため、海風の防風林の役割を果たしてきた。ただ落葉が土の栄養となって別の種が生えることで松が枯れてしまう。昭和30年頃までは松葉は燃料として集められ、積もることはなかった。現在はボランティア活動などで集めている。
同館では、1人でも気軽に松葉かきができるように熊手など道具を無償で貸し出している(軍手は各自用意。団体利用は事前予約必要)。せっかくならと、職員の方に案内された場所で始めた。15分もすると渡された袋いっぱいに集まった。小林さんの「世界文化遺産を自分で実際に動いて守るというやりがいがある」という言葉を思い出した。
大人数で行う保全イベントもある。一般社団法人「三保松原3ringsプロジェクト」が、15日に「松葉かき交流会~みんなで集めた落ち松葉で富士山をつくろう!~」を開催する。詳しくは同団体の公式ホームページまで(事前申し込み必要)。後世に残そうと取り組む人たちの存在を知ると、富士山がよりきれいに見えた気がした。
(伊藤 明日香)
◆江尻宿 東海道18番目の宿場。巴川の下流(尻)にある入江が由来となり「江尻」と呼ばれるようになった。江戸時代は海運の拠点として、駿府へ物資を運ぶ重要な場所だった。また、三保松原は海岸線の松原越しに富士山を眺望できると、国指定文化財の一種「名勝」に日本で初めて登録。13年には世界遺産「富士山」の「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産として文化遺産に登録された。
◆「みほしるべ」 入場無料で開館時間は午前9時から午後4時半まで。年中無休。住所は静岡市清水区三保1338―45。JR東海道本線の清水駅から三保方面行バスで約25分「三保松原入口」で下車し、そこから徒歩約15分。