第二次世界大戦中のアメリカやイギリスが運用した軍用機の中には、やたらと目立つ白黒のシマ模様(ストライプ)が主翼や胴体に描かれている機体があります。一体このカラーリングにはどのような意味があったのでしょうか。
第二次世界大戦中のアメリカやイギリスが運用した軍用機の中には、やたらと目立つ白黒のシマ模様(ストライプ)が主翼や胴体に描かれている機体があります。このマークは「インベイジョン・ストライプ」と呼ばれており、付けられた理由としては、1944年6月6日に行われた「ノルマンディー上陸作戦」が大きく関係しています。
大戦中に実在!ド派手な「シマシマ戦闘機」いったい何のため? …の画像はこちら >>「インベイジョン・ストライプ」が施された「スピットファイア」(画像:イギリス空軍)。
アフリカのサバンナに生息するシマウマのシマ模様は、後ろの風景に縞模様が溶け込み、捕食者に見つかりにくい役割があるといわれていますが、もちろん「インベイジョン・ストライプ」にはそういった効果はありません。むしろ空中で目立つために付けたといえます。
欧米では単に作戦開始日時を示す「D-Day(Dデイ)」ともいわれるノルマンディー上陸作戦は、航空戦力だけでも、戦闘機約5000機、攻撃機及び爆撃機約5000機と計1万機以上を投入した、空前の物量で行われた作戦でした。
この作戦の訓練の際、とある問題が指摘されました。あまりに機体数が多すぎて、ドイツ軍機などと混戦になった場合、どの機体が友軍機か分からなくなる可能性があるというものです。
しかも、上陸作戦直前から数日間に渡り、空爆と空挺作戦が並行して行われることも確定しており、作戦中ひっきりなしに行われる予定だった空挺部隊のグライダー降下の際、友軍機がグライダーやそれを運ぶ輸送機を敵機と誤認しないようにする識別方法が必要であることも判明しました。
そこで上陸作戦開始まで1か月切った5月17日に急遽考え出されたのが、やたらと目立つシマ模様で機体を塗装するというもの。白・黒・白・黒・白の順の5本帯は、それぞれ18インチ(約45cm)から24インチ(約61cm)の幅と決まります。
さらに、機体をシマ模様にすることでドイツ軍に上陸作戦を計画していると察知されないよう、ストライプへの塗装は直前にすることが決定。正式な命令は、アメリカ、イギリス海軍の航空部隊には6月3日、イギリス空軍、アメリカ陸軍航空軍ほか各国空軍には6月4日に出されることになり、ドイツ軍がほとんど保有していないエンジンを4発持つ軍用機をのぞく、全て作戦参加機にの大慌てでシマ模様が塗られることになります。
しかし、大慌てで塗ったこの「インベイジョン・ストライプ」ですが、実はつける必要がなかったのではという話もあります。というのも、周辺空域の航空優勢は作戦決行前から連合軍側にあり、6月6日の作戦初日に迎撃に現れたドイツ軍機も数機しかおらず、その後もほとんど脅威はなかったからです。
そして、作戦開始から約1か月後、シェルブールを解放した頃には、作戦部隊が各地に分散するようになり、駐機中や低空飛行中に発見されにくくするため、このシマ模様は取り外されることになります。
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フランス上空を飛ぶP-38「ライトニング」(画像:アメリカ空軍)。
なお、2022年2月から続くロシアによるウクライナ侵攻では、ロシア軍が「Z」のようなマークを戦車や装甲車に描いていますが、これも類似の車両が多いウクライナ軍との誤認を防ぐ「インベイジョン・ストライプ」と同じような役割を持たせたマークといわれています。