自動車の大量生産に必要な「型式指定」の認証制度を巡り、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの5社計38車種で新たに不正が発覚した。
トヨタグループのダイハツ工業、豊田自動織機の不正を受け、国交省が計85社に内部調査を指示し、5月末時点で約70社が回答していた。
不正は日本を代表するメーカーに広がっていた。開発期間の短縮など効率を優先するあまり、最も重要な安全性を軽視したとすれば、制度の根幹に関わる問題である。
認証制度は新型の車やエンジンを生産する際、型式ごとに安全や環境に関する基準に適合しているか、国側の審査を受けるものだ。認証を得れば、車両1台ごとの検査を省略できるため、大量生産に欠かせない。
国交省への報告で分かったのは、トヨタは安全に関する試験で虚偽データを提出したり、試験車両を不正に加工したりしていた。マツダはエンジン制御ソフトの書き換え、ヤマハ、ホンダ、スズキは試験成績書の虚偽記載などが判明した。
各社の経営者は「絶対にやってはいけないこと」「コンプライアンス(法令順守)の認識の甘さがあった」などと謝罪した。
一方、どのように不正を防ぐか、今後の道筋を示すことはできなかった。
なぜ不正が起きたのか。自ら調査し、うみを出し切るべきだ。
実態と全容を解明し、再発防止策を示す責任がある。
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品質を巡る認証制度では、不正が相次いでいる。
最近では、2022年3月に日野自動車がエンジンの排出ガスなどに関する不正行為を発表し、その後に国交省が型式指定を取り消した。
23年3月には豊田自動織機が産業機械用エンジンでの不正、同4月にはダイハツが海外向け4車種の衝突試験での不正を発表した。その後、ダイハツの第三者委員会は174件の不正を認定している。
今回、トヨタの豊田章男会長は記者会見で「不正の撲滅は無理」とし、さらに現場での試験と認証プロセスに「ギャップがある」との見方を示した。
認証制度には、規定が時代遅れで、基準が不透明といった指摘があるのは確かだ。だからといって、不正が許されるわけではない。
安全に関わる問題である。制度の課題を検証し、国と製造側で、見直しを含め、在り方を議論する必要がある。
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「日本車」の品質を揺るがす事態だ。
国交省は不正があった38車種のうち、3社で生産中の計6車種の出荷停止を命じた。
過去のダイハツの出荷停止では国内総生産(GDP)の押し下げ要因の一つになったといわれる。今回も日本経済への影響が懸念されるが、国交省の対応は当然である。
取引先の損失の補償など、主要メーカーとしての責任を果たす必要がある。
消費者の信頼を回復するには、官民一体で「不正の撲滅」に向けた姿勢を示さなければならない。