ジープ「ラングラー」の廉価グレードが復活! 選んで大丈夫? 試乗で確認

ステランティスジャパンはジープ「ラングラー」のマイナーチェンジモデルを発売した。改良点はいくつもあるが、注目はこのタイミングで日本市場に復活したエントリーグレード「アンリミテッドスポーツ」の仕上がり具合だ。選ぶ意義はあるのか、試乗して考えた。

ラングラーはジープの基本

ジープ(Jeep)の基本といえる車種がラングラーだ。現行モデルは2018年にフルモデルチェンジして、今年で6年が経つ。2024年5月に日本で発売となった新型はマイナーチェンジモデルだ。

改良点は①アンテナがフロントウィンドウに内蔵されたこと、②ジープの特徴であるフロントグリル(縦長の穴が7つ横に並ぶ)の装飾が新しくなったこと、③ホイールデザインの変更、④サイドカーテンエアバッグの全グレード標準装備、⑤インフォテインメントを第5世代の「Uconnect5」に刷新、⑥12.3インチタッチスクリーンを全グレードに標準装備、⑦Apple CarPlay(ワイヤレス接続可)およびAndroid Autoに対応などである。

マイナーチェンジのタイミングで、最も廉価な車種(エントリーグレード)の「アンリミテッドスポーツ」(Unlimited Sport)が日本市場で復活したことも大きな注目点だ。

今回はアンリミテッドスポーツに試乗し、ラングラーの素の実力を改めて探ってきた。
ラングラーの原点とは?

ラングラーの原点となるのは、第二次世界大戦中に米国陸軍が自動車メーカーに開発を依頼した小型の4輪駆動車である。戦後は市販車となり、その後継として1987年にラングラーが誕生する。戦後の日本では、三菱自動車工業がジープと同じ部品を組み立てる「ノックダウン方式」により国内生産を行ってきた。その4輪駆動技術をいかして三菱自動車が開発したのが「パジェロ」だ。トヨタ自動車の「ランドクルーザー」も、当初はジープを手本に学んだとされる。

海外では、ジープのように悪路走破性能の高いクルマを目指し、さまざまなメーカーが同じような4輪駆動車を開発した。メルセデス・ベンツ「ゲレンデヴァーゲン」(現在のGクラス)やランドローバー「ディフェンダー」などだ。

ラングラーはSUVの中でも、悪路走破性を特徴とする4輪駆動車の祖の流れを汲む由緒正しいクルマだといえる。エントリーグレードのアンリミテッドスポーツは、原点のよさを存分に味わえる1台だ。

アナログを古いと考えるか、味として楽しむか

悪路走破を前提とする床の高い室内に乗り込むには、乗用車的なSUVとは違ってサイドステップが付いていないので、窓ガラスの支柱に設けられた手すりを握りしめ、よじ登るようにして座席に座る。座席から足を外へ出しても地面に届きにくいほどなので、降車の際も少し大変だ。それを不便と思うか、悪路をどこまでも走りぬく性能を優先した実用主義の結果だと喜べるか。そこが問題になる。

運転席に座ると、視界が高いのはSUVに共通する特徴だが、前方に角張ったボンネットフードが左右の端までよく見えるので、車両感覚がつかみやすい。道なき悪路を走るうえでは、車幅を読み間違えると崖から転落しかねない。ボンネットフードの両端がきちんと見えることが、安全な走りにつながる。

目の前のメーターは表示が簡素で、必要な情報がつかみやすい。変速シフトは平凡だが従来通りのレバー方式で、前後に操作する。駐車ブレーキも昔ながらのレバー式だ。

シフトレバーの左横に2輪駆動と4輪駆動を切り替えるレバーがある。昨今のSUVはボタンやダイヤル式スイッチで駆動方式を切り替えるクルマが多い。ラングラーは昔ながらの手法を取っている。

これらの特徴からは「古さ」ではなく、耐久性・信頼性の高さを感じた。すぐに助けを求めにくい荒野で車両にトラブルが発生した際でも、アナログ的な部品であれば簡単に修理できる。
ラングラーの走りはどう?

ラングラーのエンジンは排気量2.0Lのガソリンターボだ。アクセルペダルを踏めば低い回転から的確に力を出し、2トンを超える車体を軽々と走り出させる。特に深くアクセルペダルを踏み込まなくても速度は上がっていくし、高速道路も淡々と走る。エンジンそのものは最高で毎分6,000回転まで回せるが、日常的にはせいぜい3,000回転も回すかどうかだろう。

低い回転で十分な力を発揮できて、わずかなアクセル操作で速度を調節できるエンジン特性は、悪路での微調整に役立つ。岩や砂利の混ざった滑りやすい路面や雪道などでも、それほど運転操作に苦労しないで済むだろう。今日では、多くのSUVが電子制御技術を備えており、運転の技量を心配することなく簡単に悪路を走らせることが可能になっているが、ラングラーは昔ながらの素の機能でも、確かな走りを約束する。このあたりがアンリミテッドスポーツの醍醐味だ。

車体の上部は、前席(運転席と助手席)の屋根と、後席と荷室を含めた後半部分とが、それぞれ樹脂でできた取り外し可能な仕組みになっている。前席側は4つのレバーを動かせば簡単に屋根を外せる。軽いので手で持って外すことが可能だ。一方、後席から後ろは一体式で窓ガラスもあるため重く、屈強な大人3~4人がかりで作業しないと、外した後にクルマから降ろせないほどだという。また、外した屋根を置く場所にも困るかもしれない。米国では、ラングラーの屋根を脱着するため、ガレージにクレーンを据え付けている人もいるそうだ

屋根と後席後部の車体上部は、先にも述べたように樹脂製であり、一般的な乗用車やSUVのように遮音措置がないため、外の音が室内に届きやすい。なので前後の席で会話する場合は、少し声を高めなければ聞き取りにくい。とはいえ、オープンカーに乗っていると思えば違和感はない。屋根を付けたままオープン気分を味わえるともいえそうだ。

アンリミテッドスポーツは、悪路走行を優先したトレッドブロックの大きなタイヤを装着しているが、それでもタイヤ騒音に悩まされることはなかった。いろいろな音が耳に届くものの、うるさくてイライラするほどではないので、長く乗っても苦痛にはならないだろう。

エントリーグレードを選ぶ意義とは?

一般道はもちろん、高速道路も安定して走った。乗り心地もしっかりとしていて、悪くない。路面の影響でやや車体が揺れるが、不安にさせるような動きではない。逆に、それくらい動いた方が、悪路でタイヤが沈み込んだり持ち上げられたりしたときもきちんと接地し、確実に前進できるサスペンションになっていることが感じられる。ラングラーらしさだと思えば味になる。

悪路走行を優先した4輪駆動車の面白みは、日々の暮らしで舗装路を走っているときでも、サスペンションの動きなどで悪路走破性が体感できることだ。もし、高速道路を微動だにせず走りたいのであれば、他のSUVを選べばよい。アンリミテッドスポーツは、ジープのラングラーを「あえて選ぶ」意味を実感させる、素のすぐれた性能に満ちていた。

より上級の「アンリミテッドサハラ」(Unlimited Sahara)グレードや最上級の「アンリミテッドルビコン」(Unlimited Rubicon)には、革巻きのシフトノブや合成皮革のシート(サハラ)、ナッパレザーシート(ルビコン)、前席パワーシート(サハラ/ルビコン)、給油口の蓋(サハラ/ルビコン)といった追加の装備がある。

では、装備面で劣るアンリミテッドスポーツは、安さだけが取り柄のモデルなのかというと、そうではない。例えば給油口がむき出しの素朴な姿も、機能性を優先してきたジープの伝統的な哲学が感じられる部分だと思えば、魅力的に見えてくる。

アンリミテッドスポーツはジープの基本的な魅力が味わえる合理的な選択肢だ。

御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら

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