どれだけ自尊心を踏みにじられ、無力感にさいなまれたことか。報告書で明らかになったのは「指導」とは名ばかりのハラスメント行為の数々だ。
コザ高校の空手部主将が2021年に自死したことを受け、県の第三者「再調査委員会」が調査報告書を玉城デニー知事に提出した。「(自死前日にあった)顧問からの理不尽かつ強烈な叱責(しっせき)が大きな要因」と結論付けた。
調査を巡っては当初県教育委員会が「第三者チーム」を設置したものの、全容解明には程遠いとして遺族らが再調査を求めていた。
約2年かけた調査から浮かび上がったのは、顧問と生徒との「支配的主従関係」だ。
死の前日、部活の稽古を早めに切り上げ民間の道場に向かおうとした生徒に対し、顧問は「やる気がない」などとかつてないほどに激高した。
だが、そもそも競技力を高めるためこの道場を利用することは顧問の提案だった。理不尽な叱責にも生徒は謝罪したが、その後も顧問は「キモい」「ウザい」などの暴言を重ねたという。
生徒は日常的にこうした叱責を受けていた。優勝しても叱りつけ、負けると責任を問う。生徒との私的なやり取りを禁止されているSNSを介して昼夜問わず雑用も言いつけられていた。
過去には別の複数の部員にも暴言や不適切な行為を繰り返していたことも明らかになった。
どれを取っても指導とは言い難い。生徒の心を踏みにじる人権無視の態度である。
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生徒は周囲に悩みを吐露しながらも、他の教師など学校に助けを求めなかった。
その背景については、生徒の指導にイエローカード制を導入するなど同校の「ゼロ・トレランス(寛容度ゼロ)」的な生徒指導体制を挙げる。
あらかじめ決めたルールに問答無用で従わせるやり方だ。言い分や事情を聞く余地を見せない不寛容な体制が、生徒を相談から遠ざけた可能性がある。
生徒が残した言葉や周囲の証言などを丹念に分析し、報告書は学校、県教委、県に対して計20余りの提言を行っている。「子どもの権利」に関する理解の周知や、教職員への研修の徹底、相談窓口の充実などどれも対応を急がなければならない。
学校が子どもの未来を奪う結果になったのである。改善策を講じることは最低限の責務だろう。
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「指導死」について文部科学省は昨年度初めて集計。自殺の原因を「教職員による体罰や不適切指導」としたケースは小学生1人と高校生1人だった。ただ自殺した計411人のうち6割は「理由不明」で、集計は氷山の一角の可能性がある。
一方、県スポーツ協会のアンケートでは「怒鳴る指導」について3割の保護者が「競技力が向上するならあってもよい」と回答した。
指導の名の下で暴力や暴言を容認する雰囲気は根強く残る。新たな悲劇を起こさないためにも、全ての大人の意識を変えねばならない。