本日23日、安倍派裏金事件を受けた自民党の処分の内容を読売新聞が朝刊で報じ、SNS上で話題となっている。
「安倍派の塩谷氏・下村氏・西村氏・世耕氏、『非公認以上の重い処分』自民が検討…岸田首相は対象外」
読売朝刊の記事では、安倍晋三・元首相が命じたとされる裏金のキックバック廃止について協議した幹部会合に出席した塩谷立・元文科相、下村博文・元文科相、西村康稔・前経産相、世耕弘成・前参院幹事長の4名は、〈「選挙における非公認」以上の重い処分を科す方向で調整に入った〉と報道。〈執行部内では、4氏に関し、「少なくとも次の選挙で公認はできない」との意見が大勢で、4番目に重い「非公認」か、さらに重い「党員資格停止」を軸に検討する〉としている。
読売は〈塩谷氏ら4氏は東京地検特捜部からは不起訴とされた。立件されていない議員に処分を科すのは異例だ〉などと書いているが、まったく何を言っているのだろう。
自民党の党則では、処分は重いものから「1.除名」「2.離党勧告」「3.党員資格の停止」「4.選挙における非公認」「5.国会及び政府の役職の辞任勧告」「6.党の役職停止」「7.戒告」「8.党則の遵守の勧告」の順になっているが、新型コロナ感染拡大で緊急事態宣言が出されていたなかで銀座のクラブに訪れていたことが発覚した松本純・元国家公安委員長ら3人は、2番目に重い「離党勧告」だった。
ようするに、裏金キックバックの不記載という違法行為を温存させた幹部たちの政治責任は、コロナ禍の「銀座3兄弟」よりも軽い、というのである。しかも、世論からの非難を受けた「銀座3兄弟」は離党処分を受けたものの、その後全員が復党しているように、復党が困難になるのはもっとも重い「除名」処分のみだ。「非公認以上」の処分というのは、ほとぼりが冷めたら復活させるという一時的な処置に過ぎない。
さらに言えば、塩谷、下村、西村、世耕という安倍派4幹部をこの程度の処分で済ませるとなれば、同じく安倍派幹部でありながら5年間で計2728万円も裏金を不記載にしてきた萩生田光一・前政調会長はもっと軽い処分に終わるだろう。いったい、これのどこが「重い処分」なのか。
安倍派がこの5年間のあいだに国民に黙ってこしらえた裏金の総額は6億7654万円にものぼっている。そして、この巨額の裏金が個々の選挙対策の金に使われたであろうことは想像に難くない。金の力で選挙を動かすという民主主義の破壊行為を是認した安倍派幹部たちは、自ら議員辞職するのが当然の話だ。しかし、幹部連中は政治倫理審査会で揃いも揃って開き直った態度に終始。自民党はそうした安倍派幹部の姿勢を諫めることもなく、「非公認」あるいは「党員資格停止」という大甘な処分しか下そうとしない、というのが実態だ。
ところが、この生ぬるいにもほどがある「非公認以上」を「重い処分」と読売が見出しに打った。これは明らかに、岸田首相周辺が読売に意図的にリークし、あたかも自民党が安倍派幹部に非常に厳しい政治責任を負わせようとしているかのごとく印象づけようとしたものだ。
しかも、岸田自民党としては、この大甘処分をもって幕引きさせようという算段なのは見え見えだ。
実際、いま求められているのは、安倍元首相が廃止を命じた裏金キックバックを復活させた経緯と、そもそも裏金不記載のスキームは誰がいつはじめたのか、という問題の解明だ。
だが、政倫審で安倍派幹部は「知らぬ存ぜぬ」を押し通し、自民党も裏金キックバック不記載のスキームに深く関与していると噂されている森喜朗・元首相の聞き取り調査すら実施せず。その一方で、自民党が17日に開催した党大会には森元首相も参加し、〈首相とともに会場を立ち去る姿も目撃〉(朝日新聞3月19日付)されている。ようするに、これだけ支持率が落ち込もうとも、岸田首相に裏金キックバックの真相を解明しようなどという気はまったくないのだ。
いや、それどころか今回の裏金事件では、岸田派でも5年間でパーティ券収入3059万円の不記載があり、会計責任者だった元事務局長の略式命令が確定。当然、岸田首相自身の処分も下されなければならないが、読売の報道によると〈派閥からの資金の流れは派閥・所属議員双方の収支報告書に記載されていた〉ことから〈首相の責任を問う事案ではないと整理した〉という。だが、3000万円を超える不記載があったことは事実であり、「(不記載の約3000万円は)修正した金額に合うかたちで口座に残っていた」「事務処理上の疎漏」などという岸田首相の説明で納得できるものではない。
さらに岸田首相には、任意団体が地元・広島で開催した「内閣総理大臣就任を祝う会」の収益の一部とみられる約320万円を岸田首相の関連政治団体に寄付していた“闇パーティ疑惑”も浮上。岸田首相自身が裏金疑惑を払拭できないなかで、自民党に自浄作用など期待できないのは当然だ。
だが、ニュースを深く追っていない人びとに対して「非公認以上の重い処分」という見出しが与えるインパクトは大きい。それでなくても、テレビを中心としたメディアは大谷翔平選手の結婚や通訳の水原一平氏をめぐる騒動に加熱しており、裏金事件への関心を失っている。ほとぼりが冷めるのを待っている自民党にメディアがアシストしているような状況だ。
SNS上では今回、読売が打った「非公認以上」がトレンド入りしているが、これがいかに恣意的で欺瞞に満ちたものなのか、しっかり周知させる必要がある。そして、自民党には何ら期待できず、有権者自身が裏金議員を落選させなければいけないという「落選運動」をはじめるきっかけにすべきだろう。