防衛費倍増=「仕事も倍」川崎重工どう動く 語られた防衛事業のビジョンとは 「三菱とも協力を」

防衛費が倍増されるのに伴い、川崎重工が説明会を開きました。会場では、執行役員の口から防衛事業の収益改善という言葉も。民間企業として具体的にどう動くのかハナシを聞いてきました。
「防衛事業の売り上げ収益が2030年度には5000億円から7000億円に達する」
2023年12月に開かれた川崎重工業(以下、川重)のグループビジョン進捗報告会で、同社航空宇宙システムカンパニープレジデントの下川広佳専務執行役員は、今後の見通しについてそう説明しました。
バイクから鉄道車両、航空機、大型船舶まで大小さまざまな製品を世に送り出していることで有名な川重は、陸海空自衛隊の装備品も数多く手がけています。同社のグループ全体の業績を見ると2023年3月期の売上高は1兆7256億円。このうち防衛事業が占める割合は14%の約2400億円です。
防衛費倍増=「仕事も倍」川崎重工どう動く 語られた防衛事業の…の画像はこちら >>川崎重工が建造した、たいげい型潜水艦の2番艦「はくげい」(画像:川崎重工)。
内訳は哨戒機や輸送機の航空宇宙事業が65%と大半を占めており、潜水艦の船舶海洋事業が17%、舶用推進事業が14%、航空エンジン事業が5%と続いています。代表的な製品としては、陸上自衛隊の偵察オートやCH-47ヘリコプター、海上自衛隊のP-1哨戒機や「たいげい」型潜水艦、航空自衛隊のC-2輸送機やT-4中等練習機など。
川重は政府が防衛力の抜本的な強化を掲げ、2022年12月に決定した「防衛力整備計画」に基づいて装備品の調達や施設の整備を進めていることから、防衛事業が拡大していくと見込んでいます。実際、2024年度予算案の防衛関係費は過去最大の7兆9496億円となっており、その中には川崎重工の製品が関わる分野が多く含まれています。
下川専務は「受注高は防衛費増額を契機として、2023年度は前年比2000億円増の4600億円を見込んでいる」と話し、売り上げ収益についても2022年度実績の2400億円から、冒頭のとおり2030年度には「5000億から7000億円」に達すると見込んでいます。
「防衛事業の課題とされていた収益面についても、契約制度の見直しを受けて今年度の契約から改正し、全ての契約が新契約に置き換わる2027年度には、事業利益10%以上を実現していく」とのこと。これまである意味、儲けは度外視だった防衛事業が、稼げる事業へと急速に変貌していくかもしれません。
川重は2024年1月現在、新SSM(島嶼防衛用新対艦誘導弾)やC-2輸送機をベースとしたスタンド・オフ電子戦機、VLS(垂直発射装置)を装備した次期新型潜水艦、艦船や島嶼部への物資輸送に活用できるVTOL無人機、そして対空型偵察無人機や戦闘支援型無人機などの開発に注力しています。
新SSMは長射程化とステルス性を両立させた弾体と自社開発の高性能赤外線シーカー、そして軽量で大出力なKJ300ターボファンエンジンで構成されます。
航空機、艦艇、地上など複数のプラットフォームから新SSMが発射されると、相互に通信を行いながら海面スレスレをフォーメーション飛行することで、敵のレーダーから発見されずに接近、かつ優れた機動性で相手からの攻撃を回避し、高い残存性も発揮するといいます。AI(人工知能)によって自ら目標を識別し、精密誘導を実現します。
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川崎重工が製造する国産ジェット輸送機C-2(画像:航空自衛隊)。
搭載されるKJ300ターボファンエンジンはスタンド・オフ・ミサイル用エンジンとして国内唯一のもの。このミサイルは、ターボファン化することにより同規模のターボジェットエンジンと比べて低燃費、長射程を実現するとともに、補機の小型化によってファン径を最大限大きくして、同一規模のターボファンエンジンに対し、世界最高レベルの大出力を実現しました。
下川専務は、標的機用に使っているKJ10シリーズが国際的に貴重なエンジンであり、海外からも引き合いが来ていることに触れ、「KJ300はトマホークに搭載されているエンジンよりも大出力で非常に優秀なエンジン。このシリーズは装備品移転の対象になると思う」と話しています。加えて水素実証機、無人機用さらには有人機用と発展させていく方針も示しました。
また川重は、たいげい型潜水艦に続く次期新型潜水艦の船型開発検討作業も防衛省から受注しており、スタンド・オフ・ミサイル搭載に向けた研究にも参画しています。
新型潜水艦では、隠密行動をする上で必要な高いステルス技術と高い探知技術、そして機動性を向上させる水中航行技術を実現していく方針です。同社が出したコンセプトを見ると、艦橋を後方に寄せていることから、前側にVLSを搭載するスペースを用意するとみられます。
今後は潜水艦建造で培った技術を応用し、防衛分野向けUUV開発や、大気からの二酸化炭素直接回収(DAC)の確立も目指すと説明していました。
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川崎重工が製造する陸上自衛隊向け「オートバイ(偵察用)」(乗りものニュース編集部撮影)。
新たな事業分野となるのは無人アセット防衛能力の部分で、川重は回転翼と固定翼のそれぞれで無人機の開発を行っています。
回転翼では山岳地帯における輸送を想定して開発された無人VTOL機「K-RACER」をベースに、艦船・島嶼向けの物資輸送無人機や、艦載警戒監視無人機など防衛用途で活用が可能な機体の実現を目指しています。
「『K-RACER』はドローンと異なり、飛行高度に制限がなく、最大積載量は200kgと非常に大きな積載量を持っている。回転翼ならではの特性として、滑走路なしで飛行可能で安定性も高い。防衛用途にも積極的に提案しており、来年春には防衛省で『K-RACER- X2』の実験機を用いて実用試験を行う予定だ」(下川専務)
固定翼については、自社開発の実験機と海外導入機をベースに、哨戒機との連携を行う滞空型偵察無人機や戦闘機と連携して自律飛行戦闘が可能な戦闘支援型無人機を開発しています。
「日本国の防衛力増強に向けたキーとなる技術や商品は我々の手の中にある」と、下川専務は意気込みます。ただ「倍の予算ということは、倍の仕事が来る」とも。
「これをこなすためには、1社だけの力では難しい。三菱重工業などと協力することはもちろん、C-2とP-1のサプライヤーは日本に約2000社あり、その総力を合わせて5年間に来る総量をこなさなきゃいけない」(同)

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