《年金支給額を2.7%引き上げ、バブル期並み高水準…厚生年金はモデル世帯で月23万483円》
厚生労働省が発表した2024年度の公的年金支給額を報じた、読売新聞の記事の見出しだ(1月19日付)。
まるで大幅に年金が増額された喜ばしい報道に見えてしまうが、
「じつは、マクロ経済スライドという制度によって、実質、もらえる年金は目減りしているのです」
そう語るのは、YouTubeで「年金博士・北村庄吾の年金チャンネル」を持つ、社会保険労務士の北村庄吾さんだ。
「かつては、物価や賃金が上がれば、同じように年金支給額が上がっていました。インフレに強い制度だったんです。
ところが2004年にマクロ経済スライドを導入。物価や賃金が上昇しても、その上昇率から“調整率”を引いた分でしか、年金支給額が上がらない制度ができたのです。
しかも調整率を反映しきれなかった場合、次年度以降に未調整分を持ち越しできるキャリーオーバーという制度も、あとから追加されています。年金支給額が増えるのでわかりづらいですが、物価上昇に追いついていかないので、年金の価値は下がっているわけです」
2024年度の年金額改定に関して、北村さんが続ける。
「年金支給額は、過去3年間の賃金変動率(3.1%)や、直近1年の物価の変動率(3.2%)などをもとに改定されます。 67歳以下で新たに年金を受給する人は賃金変動率、68歳以上の年金生活者は賃金変動率と物価変動率の低いほうを使用することになっています」
2024年度の改定の際、採用されたのは賃金上昇率の3.1%。つまり、2024年度の年金は、本来なら同じように3.1%上がらなければ、年金の価値が落ちてしまうことになるのだが。
「調整率0.4ポイントのマクロ経済スライドが発動されたことで、年金額の上昇率は2.7%に抑制されているのです」(北村さん)
夫婦2人のモデル世帯(平均的な賃金の会社員で40年間年金に加入した夫と専業主婦の世帯)の厚生年金に関しては、2023年度が22万4千482円だったため、2024年度は+2.7%で23万483円と、6千1円増額されている。
しかし、マクロ経済スライドがなければ+3.1%で23万1千440円となり、月957円ほど支給額が高くなるのだ。年に換算すれば、1万1千484円(概算)も年金を損していることになる。
物価上昇と同じように賃金も上がる現役世帯であれば生活水準を保てるが、年金と貯蓄で生活する高齢者にとっては大打撃だ。
■年金支給額は上がっても、物価上昇には追いつけず、年間3万4千140円の負担増に!
その高齢者に追いうちをかけるのが介護保険だと、生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんが語る。
「2000年度に始まった介護事業ですが、第1号被保険者(65歳以上)の介護保険料の基準額は、全国平均で月2千911円から、現在は6千14円と倍増しています。
先日、毎年改定されている40?64歳の介護保険料が、2024年度には6千276円と過去最高になると推計されました。3年に1度見直される65歳以上の介護保険料改定は、今年です。64歳以下と同額だと仮定すると、月の基準額が262円増額されることになります」
一方、日々の買い物では、いまだに物価の上昇を実感するばかり。
「一度始まったインフレは、そう簡単に収まらない」(経済評論家)ようだ。
ファイナンシャルプランナーの内山貴博さんが、昨年4月の総務省「家計調査」をもとに、年金改定が行われる今年4月以降の支出額を試算する。
「65歳以上の夫婦(2人以上)世帯の消費支出は月25万6千185円です。そこから物価上昇の影響を受けにくい住居費を差し引くと24万275円に。
前年の消費者物価指数の上昇率3.2%が今後も続くと仮定すると、昨年4月と同じ買い物をした場合、今年4月の支出は7千689円増える計算となります」
ここに、マクロ経済スライドによって抑制された年金額957円と、来年度の新たな介護保険料の予想増額約200円をプラスすると、8千846円の負担増に。一方、年金は6千1円増額されるので、その差額は2千845円。
つまり年金支給額が上がっても、物価上昇に追いつけず、月2千845円、年間3万4千140円も負担増となる結果になった。
年金生活者の自己防衛策としては「もはや働いて収入を得ることと、節約くらいしかありません」(柏木さん)という。
なかでも支出において大きな割合を占める食費がポイントとなると、柏木さんは語る。
「第一生命経済研究所のレポートでは、2022年9月から2023年8月までの1年間のエンゲル係数が29%となり、1980年以来の過去最高水準だと報告されています」
エンゲル係数とは家計の消費支出に占める、外食なども含めた食料費の割合だ。
「過去最高となったのは、食料品の価格が高騰していることが大きな要因でしょう。さらに映画館に行くのをやめてサブスクの動画サービスを利用したり、旅行の回数を減らしたり、趣味のお金を節約したことも要因と考えます。みなさん、食費以外、削れるところは削ってしまっているのではないでしょうか」
■健康を害さずに食費を削る節約術8カ条で、実質年金増額を乗り越えよう
だからこそ、さらなる節約となれば、支出の3割近くを占める食費に手をつけるしかない。健康を害さずに食費を削る節約術を柏木さんと内山さんに解説してもらおう。
【1】セール品を冷凍保存
「SDGsの観点から、イギリスでは食材の冷凍保存を政府が推奨しています。安売りの肉類、魚、野菜などがあれば多めに買って、冷凍保存しておくといいでしょう」(柏木さん)
また、横浜市の調査では1人当たり年間1万8千円の食品ロスがあると報告されている。 「食材を無駄にしないことが、求められます」(柏木さん)
【2】ドラッグストアを積極利用
「基本的にドラッグストアは薬や生活用品で利益が出せるので、食料品やお菓子、冷凍食品などを非常に安く提供しているケースが多くあります」(柏木さん)
【3】米や味噌はふるさと納税
自治体に寄付をする代わりに、寄付額から2千円分を引いた税額が控除され、返礼品を楽しめるふるさと納税。
「その返礼品は、日持ちする食材を選ぶと食費の節約に。私の場合、東北のブランド米15kg1万5千円、味噌半年~1年分5千円、鹿児島の焼き豚180g×3個1万円などを利用しました」(柏木さん)
【4】アプリを駆使
「多くの人がスマホを持っているのだから、家計簿アプリやチラシアプリを利用してほしいです。
家計簿アプリは入力も簡単で、食費にどのくらいかかったのか、仕分けして計算してくれます。
チラシアプリを利用すれば、登録した生活圏のスーパーなどの特売品や、特売チラシの比較機能などで、商品ごとの地域最安値がわかったりします」(柏木さん)
【5】急きょ必要な品はコンビニで
定価販売の多いコンビニよりも、安売りで品数の多いスーパーを利用したくなるが……。
「スーパーは店舗が広く、レジで並ぶ時間でレジ前の割引商品に手を出したりするなど、予定外の買い物をしてしまいがちです。明確に欲しいものがあれば、コンビニのほうが結果的に節約できることも多いのです」(内山さん)
【6】割引に目を奪われない
スーパーなどでは、1把100円のにらを、2把180円で割引販売しているケースを見かける。
「たくさん食べるなら単価の安いほうを選ぶべきですが、余らせるリスクがあるなら、多少割高でも1把を買うべきです」(内山さん)
日々の細かい節約で、“実質年金減額”を乗り越えよう。