「ド派手な袴を」という、2003年に貸衣装みやびを訪れた2人の若者の要望に応えたことから、今や名物となった北九州市のド派手な成人式。20年間その式を支えてきたオーナーの池田雅(みやび)さんは、昨年9月にニューヨークのファッションウィークでショーを披露した。数多くのテレビ番組に出演、北九州市長が議会で話題にするなど、知名度があがり続ける池田さんに、令和6年の成人の日に、激動のこの一年、これからの展望を振り返ってもらった。
――2023年にNYコレクションに参加した経緯を教えてください。2022年の9月にNYで個展を開きまして、その後正式にショーに招待されました。実際に参加したのは、2023年の9月です。コレクションにはTV番組の密着取材が入る予定だったのですが、ギリギリのタイミングで頓挫しているんです。そんな経緯もあってビジネスチャンスというよりは、一生に一度の思い出作りという気持ちで参加しました。――ショーは大成功、コレクション後はさらに知名度が上がった印象です。実は読売新聞さんが記事を作ってくださっただけだったんですよ。でもその記事のおかげで、取材依頼が殺到、NY滞在中にZOOMで取材を受けてましたね。
喝采を浴びたNYコレクション
――ものすごく評価されたNYコレクションですが、中でも一番うれしかったことは?「着物を芸術的に昇華させたアートだ」という評価をいただいたことですね。みやびの衣装は派手なのですが、装束の伝統に反しないように作っているので、そこを評価してもらえたことに感極まりました。20年間支えてくださった若者の皆さんと、不可能を可能にし続けてきた優秀なスタッフのおかげです。――北九州市が観光資源として注目しているお話も。2023年に新しく就任した武内市長には、地域を盛り上げる北九州ならではのコンテンツとして注目してもらっています。昨年の9月に議会で話題にしてくださってからは、みやびに寄せられる声も少しずつ称賛というか、応援に変わってきましたね。――世間からの評価が変わったのですね。テレビに出演させていただくことはもちろん(2023年の12月には4番組に出演)、火災の被害にあった北九州の旦過市場の復興に携わっているNPO法人からお声がけいただいて、新たなプロジェクトを始めたり、正直手のひら返しですよね(笑)。でも結果的に、北九州が盛り上がればうれしいです。
――北九州の地域活性のためのイベントにも参加されています。NYで個展をやったときに、カンタン羽織を作ったのです。これが革命的なんですよ。着物で一番大変な着付けをせずに、誰でもすぐにみやびの衣装を着ることができます。北九州のイベントでも外国人にとにかく大人気で、500人以上の外国の方が喜んで写真を撮っていましたね。――インバウンド需要ですね!「海外のセレブ向けに作ったら売れる」と言われています(笑)。でも正直毎年の若者の着物も儲かっていませんし、イベントも別に儲けようとかじゃなくって、地域貢献というか。北九州にしかないじゃないですか、こんな衣装。これまで批判されることが多かったですし、うれしいんですよね。
NYでの展示のために作成したカンタン羽織を羽織った雅さん。彼女の作品は、ジェンダーレスでもあり、ボーダーレスでもある。
――これまではどんな批判が?SNSでは「死んだらいいのに」「うち(貸衣装みやび)があるから、北九州の成人式がこうなる」「北九州の恥さらし」とか。あと式の直後は、ご年配の方から「けしからん!」というお電話がかかってきます。お客さまからのクレームであればお詫びできるんですけど、こればっかりはどうしようもなくって…。今年は減るとうれしいな。――NYでの喝采、全国ネットのテレビ番組に出演などで、新成人の問い合わせに変化はありますか?いまは、2025年とか2026年に新成人となる方から「『みやび』さんの衣装をぜひ見てみたいです!」と問い合わせがきています。オーダーしてくれる新成人たちの衣装に対する考え方も、少しずつ変化しているように思いますね。ただ目立ちたいというより、アートを身につける感覚といいますか、そんな思いをもって衣装を選んでくれる人も増えてきた気がします。――20年間、若者と歩んでこられました。最近の若者の方々は、コロナ禍の行動制限の中でマナーを身につけられたんだと思っています。みやびの着物は華やかで派手ではありますが、上品にはしゃぐ姿勢も少しずつ身につけている気がします。変わらずヤンチャな子もいますが(笑)。――2024年はパリコレクションでショーを披露されるという噂です。NYからも当然来てくれますよね?という強気なオファーをいただいていて、ミラノとパリからもお声がけがかかっています。まだどのようなスケジュールになるか予定を組めていないのですが、今年のパリはオリンピックもありますもんね。ぜひ期待していてください。
新成人のためにと会場の近くにランウェイを作った。もちろん利益が出ることではないという
金襴の織り生地に、トラ柄をプリントするなど本当に芸が細かいみやびの衣装。NYのショーのために、どうしても1点だけ作りたかったというドレスは、袴の反物をトレーンに施した。
NYコレクションのためにどうしても作りたかったというドレス
だが有名になり過ぎたために、老舗の衣装屋に”影響”を及ぼすほどになってしまった。みやびの衣装をそのままトレースしている衣装も散見されているという。ファッションやアートの世界では、”オマージュ”といってしまえば済まされてしまうが、「だからこそ新しい作品を生み出し続けないといけない」と雅さんは心を燃やしている。批判に晒されながらも、スタッフやパートナー企業の織元さんたちに助けられながら、目の前にいるお客さんに素直に寄り添ってきた結果が文化となって積み重なり、アートとして認められた。「みやび」はいま、ヤンキーのための衣装屋ではなく、世界を代表するアートな着物メーカーへと生まれ変わろうとしている。日本のヤンキー文化が、世界各地で花開く日を楽しみに待ちたい。
撮影・取材・文/冨田沙織