〈能登・大雪直前〉避難所で注意すべき3つの健康リスク…低体温症・感染症・エコノミークラス症候群を防ぐためにすべきこと〈防災・危機管理アドバイザーより〉

元日に発生した能登半島地震。多くの家屋が倒壊し、避難生活の長期化が懸念される。厳しい寒さや、食料などの物資が不足する中、被災者が直面する健康リスクとは。すぐできる対策や、気をつけるべき点などを防災・危機管理アドバイザーで、医学博士の古本尚樹氏(55)に聞いた。
古本氏は2016年に発生した熊本地震直後から復興支援に携わっており、高齢者の健康、物流、災害復興の専門家でもある。能登地震発生直後から「経験と知識を役立たせたい」と、集英社オンラインに情報提供を申し出てくれた。古本氏がまず指摘する被災者への懸念事項は、「低体温症」だ。低体温症とは、脳や臓器など体の奥の深部体温が35度以下となる状態。身体機能が正常に保てなくなり、体が震えたり、意識がもうろうとしたりするなどの症状が出るほか、最悪の場合は死に至る恐れもある。
石川県内の避難所(共同通信社)
石川県の能登地方を含む被災地では、この連休中も大雨や大雪が予想されている。厳しい寒さに加え、相次ぐ停電や物資の不足などで避難者が十分に暖を取れていない状況だ。古本氏は「避難所などに使われる体育館の床は冷たく、体温が奪われやすい。寝るときだけでなく、座るときも床に段ボールや毛布を重ねて敷くなど、なるべく床に直接触れないようにしてほしい」と指摘する。体温を下げない工夫として、手袋やマフラー、帽子を着用するなど、とにかく外気に触れる部分を少なくしたり、洋服の中に新聞紙をはさんで入れたりするのも効果的だそうだ。また、ストレッチや屈伸などの適度な運動、栄養補給や水分補給も体温を上げるのに有効だ。「ふだんと様子が違ったり、呼びかけても反応が遅いというのも低体温症の予兆の一つ。さらに、体の震えが止まらなかったり、手足が冷たくなっていたりすることもある。特に子どもなどは自分で症状を伝えることが難しい場合もあるので、周りの大人が気にかけて、異変を感じたらすぐに避難所の責任者に知らせるなど対応をとってほしい」(古本氏、以下同)
地震で潰れてしまった家屋(撮影/集英社オンライン)
「周りの人に迷惑をかけるかも、とか、まだ我慢できる、などと思わずになるべく早く対応してもらうことが重要」とも古本氏は言う。
避難所では、多くの被災者が集団で生活をおくる。そんななか、懸念されるのがインフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの蔓延だ。
医学博士の古本氏(HPより)
「不特定多数の人がたくさんいる環境にいながら、水や物資の不足などの影響で対策がなかなか取れていないのが現状。被災者も疲れがたまり免疫が落ちてきている中で、コロナやインフルエンザの感染者がいれば一気に広がる可能性が高い」避難所では、パーテーションなどで家族ごとに空間を区切ることも感染対策として有効だという。パーテーションがない場合も、体育館にある卓球台を使うなど、別のもので代用することも可能だ。加えて、マスクの着用やこまめな手洗い、うがいなど基本的な感染症対策が重要となる。古本さんによると、歯磨きなど口内環境をきれいに保つことも対策となるそうだ。「歯ブラシや歯磨き粉がない場合は、緑茶や、塩をお湯で溶かしてうがいをするだけでもある程度効果がある。何もなければ水で口をゆすぐだけでもいい。なるべく口内をきれいに保つことが大切です。大変な状況ですが、できることを少しずつやって対策にしてほしい」
ペットがいて避難所にいけなかったり、自宅付近にいられるよう、車中泊をする人も多いが、ここで注意が必要なのは「エコノミークラス症候群」だ。エコノミークラス症候群は、窮屈な座席などで長時間同じ姿勢のままでいることで血液が固まりやすくなり、血管に血の塊(血栓)ができる症状。血栓が血管を流れ、肺に移動すれば、息苦しさや胸の痛みを起こすほか、最悪の場合は死に至ることもある。古本さんによると、エコノミー症候群の対策として重要なのはまず、定期的に体を動かすこと。足首を回したり、屈伸をしたり、ふくらはぎをマッサージするなどの予防が効果的だそう。
家屋を失い、家族で車で寝泊まりをしている男性(撮影/集英社オンライン)
また、被災地ではトイレを控えたいなどの理由で水分をセーブする人も多いが、エコノミー症候群の被害を減らすためにも水分補給は絶対だという。「寒いと運動不足にもなりやすい。トイレに行く際に、必ず屈伸をするとか、時間を決めて定期的に足首を回すなど、なるべく意識して体を動かしてほしい」そのほかにも、避難所での生活が長引くことで高齢者の腰痛や肩こりなどが悪化する場合もある。また、食事の変化やストレスから腸内環境が悪化し下痢などの不調がおこることも考えられる。「物資不足の解消など、いち早く環境が整うことが重要。大変な思いをしていらっしゃいますが、環境が整うまでは、自発的にストレッチなどの適度な運動や水分補給、深呼吸などを意識してほしい」と再度、呼びかけた。※「集英社オンライン」では、能登半島地震について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。メールアドレス:shueisha.online.news@gmail.comX(Twitter)@shuon_news取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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