〈岸田首相・会見を分析〉「ストレスが強くなると口を堅く閉じ、上唇を膨らませる」臨床心理士が気づいた、一貫して無表情だった岸田首相が唯一うなだれた「記者の質問」とは?

12月14日に出た時事通信の世論調査で、岸田内閣の支持率がついに17.1%となった。2012年12月の自民党政権復帰後の調査としては、過去最低の数値だという。13日に臨時国会の閉会を受けて行った会見で、岸田文雄首相は「国民の信頼回復のため火の玉となって取り組む」と、自民党安部派の政治資金パーティーをめぐる裏金疑惑について決意を述べた。だがその言葉も国民の心には響かなかったようだ。臨床心理士の岡村美奈氏が会見時の首相の心理状態を分析する。
「火の玉」という言葉を使った岸田首相だったが、もはや泥船ともいわれる岸田政権の実状は「火だるま」ではないか。ネットやメディアもそういう声であふれたが、そう思わせてしまうだけの要素がこの会見にはあった。この日、岸田首相は黒っぽいダークグレーのスーツにグレーと白のレジメンタルストライプのネクタイを着用。グレーは自己主張せず、控えめで落ち着いている印象を与えるため、謝罪会見などでよく用いられる色だ。登壇した際も、「国民から疑念を持たれるような事態を招いているのは極めて遺憾」と述べながらも、表情はいつもと変わらない。それでもストレスは強かったのだろう。言葉と言葉の合間に何度か大きく息を吐く。「自民党の体質を一新すべく、先頭に立って戦ってまいります」と述べたときは、一瞬眉間にシワが寄り右頬がぴくっと動いた。その表情から自民党の体質と戦うことへの緊張感が感じられた。
会見での岸田氏(NHKより)
岸田首相は話しながら文節を区切るときに、口をしっかり閉じるクセがある。ストレスが強いほど口を堅く閉じて唇を引き締めるだけでなく、口先、特に上唇の上を膨らませ、唇を隠してしまう。前日の12日、報道陣による囲み取材に答えていた際も口をギュっと閉じ、上唇の上を膨らませていたが、この日は今までになく、何度もそこを膨らませた。強いストレスや緊張だけでなく、不安や不快感なども感じていたのだろう。
会見での岸田首相(写真/共同通信社)
続けて「これが自分の務めであると思い定めています」と述べると、今度は一瞬、頭を軽くのけ反らせた。この問題に取り組むことがいかに大変なのか、どれだけ時間がかかるのか、首相自身がよくわかっているのだ。だが「国政に遅滞をきたすことがないよう、全力をあげなければなりません」と述べ始めたあたりから、語尾から力が抜けていく。その後「国民の信頼なくして政治の安定はありません」というときも口を堅く結び、奥歯をかみしめたように見えたが、言葉に力がなく言い切れない。政治資金をめぐる問題に「正面から取り組んでまいります」「火の玉となって取り組んでまいります」と表現は強いが、声は弱く視線も下がり、気が抜けた印象だ。「国民の皆様のご理解をお願い申し上げます」では声のトーンがいちだんと下がり、視線まで落としてしまう。国民にお願いしたい気持ちが視線を落とさせたのかもしれないが、このようにメリハリのない言葉と話し方では、首相の気持ちはまるで伝わらなかった。
質疑応答では、裏金疑惑について問われる度に、回りくどい説明を繰り返した。事実と確認されたら対処、説明し、課題や原因を明らかにした後で党が対応を協議するという主旨だろうが、「そして」「そして」と接続詞を多用するため、何を言いたいのか頭に入ってこない。また、単調な説明が淡々と続き、「思っています」「考えています」と、状況に応じて対応する姿勢を示すばかりで具体的なことは何も示されない。前向きな熱意も意気込みも使命感も感じられないため、真摯な取り組みを期待するのは難しいと、見ていた人々に思わせた。
表情を変えない岸田首相(NHKより)
また、何を問われても、何を話しても表情が大きく変わらなかった。手振りや仕草も少ないため感情が読み取れない。動じる様子もないのは、鈍感なのか、したたかなのか。しかし「人事の後、閣僚に問題が出た場合、どう対応するのか」と問われたときは違った。「人事をやる段階でお答えすることが適切でないが」と前置きしながら、「懸念が生じないよう、どう対処していくのか、体制はどうあるべきか判断する」と右手を動かし、やや前のめりになって大きく頷きながら述べたのだ。さらに一般企業を例にトップが責任を取る形、すなわち「総辞職」について問われると、うなだれるようにうつむいた。総辞職という言葉は聞きたくないのだろう。だが答える段になって頭を上にあげると、総辞職ではなく「解散」という言葉を使い、「今はそうした先の事を考えている余裕はない」と言い切った。先行きの心配より、新しい岸田内閣をどうまとめていくのかが首相にとっての最優先事項なのだろう。翌日には4閣僚が辞表を提出し、岸田首相は囲み取材で、安倍派の閣僚を一斉交代させ、即戦力となるような人事を行なったと、すっきりした表情でコメントした。この取材での岸田首相のネクタイは鮮やかな濃いブルー。色で知的さと冷静さを示しつつ、前日のように上唇の上側を大きく膨らませるようなこともない。すでに首相の中では気持ちが切り替わっているようだった。記者の質問には「うん、うん」「はい」と頷きながら、返答する声は明るく力がある。この様子から、閣僚の交代は首相にとってむしろ好都合だったのではないかと思いたくなったほどだ。
自民党
増税メガネというありがたくないニックネームで、すっかりネガティブなイメージがついてしまった岸田首相だが、今回の会見でさらに、増幅させてしまったのではないか。このままでは、岸田首相の「火の玉」は、政権よりも先に支持率を燃やし尽くしてしまいそうだ。取材・文/岡村美奈 集英社オンライン編集部ニュース班

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