JR東海が進めるリニア中央新幹線(東京~名古屋間)の首都圏トンネル工事計画を巡り、工事の差し止めを求めている原告の近隣住民らとその代理人が3月17日、都内で会見。
判決言い渡し期日の指定が違法であり無効であるとして、3月10日付で申し入れ書を提出したことを明かした。
東京地裁、最高裁の判断前に判決期日を指定原告側の資料などによると、昨年10月8日に開かれた口頭弁論にて、原告側はトンネル工学者を証人として申請。しかし、これを裁判長が却下し、その流れで結審と判決言い渡し期日を口にしたという。
申請却下が口に出された瞬間、原告代理人の梶山正三弁護士が裁判官の忌避を申し立てた。
民事訴訟法24条では「裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる」と定められており、今回の裁判では証人申請の却下などが理由とされた。
裁判長は一度は〈2025年1月28日〉に判決を言い渡すと宣言したものの、その2日後の昨年10月10日に東京地裁の書記官から、「期日が無効となった」と、梶山弁護士に電話で通知された。
その後、11月11日に、東京地裁は忌避の却下を決定。原告側は東京高裁に抗告を行ったが棄却され、現在は原告側の特別抗告(1月16日)により、最高裁での審理を待っている状態だ。
しかし、2月28日に東京地裁民事12部が弁護側に対し、判決言い渡し期日を3月27日に指定すると通知。これを受けて前述した申し入れ書の提出が行われた。
「裁判が結審したかどうかも謎」この2度目の期日指定について、梶山弁護士は「忌避の申し立てがあったときは、その申し立てについての決定が確定するまで訴訟手続を停止しなければならない」と定めた民事訴訟法26条1項の条文に「明らかに反する」と指摘。
「裁判が結審したかどうかも謎のままですし、ひょっとすると裁判官は結審してもしなくても判決を出してしまえという考えを持っているかもしれません。
しかし、法的には考えられず、乱暴な裁判体だと言えます」(梶山弁護士)
「忌避の制度が形骸化してしまう」また、同代理人の樋渡俊一弁護士も「非常に異様だ」として次のようにコメントした。
「裁判では、『言いたいことがあったのに、言えずに終わってしまった』とならないように、弁論の終結という手続きが取られます。これを経ていないのに、そのまま判決を出してしまうのは異様であり違法だと思います。
忌避に関しては、高裁の判断が出ているので、裁判所側はそれをもってして判断が確定したと主張してくると予想されます。しかし、裁判官の忌避は国民の権利として認められています。
最高裁が『あなた方(裁判官)が、この裁判の判決を言い渡していいですよ』と判断した後で、判決を言い渡すのであれば、まだ理解ができますが、最高裁の決定も出ないうちに、判決まで言い渡してしまうのは、非常に異様で、私は過去に経験したことがありません。
もし、これから裁判官の忌避が特別抗告で認められれば、東京地裁の裁判官たちは判決を言い渡せなかったことになり、一度言い渡した判決が『実は無効でした』となってしまいます。
判決の無効も聞いた覚えがありませんし、そうした事態が起きてしまいかねない点からも、普通はこの状態で判決を言い渡すことは考えられません。
国民は憲法32条で裁判を受ける権利が保証されていますが、その権利とは当然、公平公正な裁判所によって、裁判を受ける権利です。最高裁の判断を求めているのにかかわらず、それを待たずして『われわれはもう判決を言い渡して良い』とする地裁側の理屈は通らないでしょう。
このような前例が認められてしまえば、正当性なく判決を言い渡して良いということになってしまいますし、忌避の制度も形骸化してしまいます」(樋渡弁護士)
「現在のままでは納得できない」会見の終盤、原告のA氏は現在の心境について改めて以下のように述べた。
「私たちは工事中止を求めて訴訟を起こしていますが、その背景には安全性が保障されていないとの懸念があります。
今回の裁判で中止が認められなかったとしても、安全性に対する何かしらの担保が、裁判で引き出せれば良いなと思っています。
司法の手続きにのっとっていない状態のまま判決が出ることには納得がいきません。今後もアクションを続けたいです」