アメリカ海軍が運用するEA-18G「グラウラー」電子戦機に新たなポッドが搭載されるようになっています。一見すると燃料タンクもしくは爆弾に見える円筒状の装備品、これは電子戦機には欠かせないものでした。
2025年2月上旬から、グアムのアンダーセン空軍基地で行われている合同演習「コープノース25」。この演習では、アメリカ海軍のEA-18G「グラウラー」電子戦機に新装備をぶら下げている姿を見ることができました。
新型爆弾!? それとも燃料タンクか? 米軍「あやしい艦載機」…の画像はこちら >>「コープノース25」に参加しているアメリカ海軍のEA-18G「グラウラー」に搭載されたALQ-249 NGJ-MB(布留川 司撮影)。
EA-18Gは、外見上は映画『トップガン マーヴェリック』にも登場したF/A-18「スーパーホーネット」戦闘機とよく似た出で立ちですが、同機は電子戦機という名称のとおり、機体には特別な電子機器が搭載され、目には見えないレーダーなどの電波を探知・妨害(ジャミング)することを任務としています。
現代の航空戦では、敵の存在を最初に知るのは人間の目ではなくレーダーなどの電子の目であり、それを妨害することができる電子戦機は、ある意味で戦闘機よりも重要な装備品といえるでしょう。
敵の電波を妨害するジャミング装置は、主翼下のパイロンにポッド型のものを搭載しますが、今回の「コープノース25」では、2024年に配備が始まったばかりの新型ジャミングポッドを装備して参加していました。
この新型ジャミングポッドは「AN/ALQ-249」というもので、現場ではNGJ-MB(次世代ジャマー・ミッドバンド)と呼ばれているそうです。
これまでアメリカ海軍の電子戦機に搭載されていた電子妨害ポッドはAN/ALQ-99と呼ばれるもので、その最初のモデルがアメリカ海軍で運用が始まったのは1970年代のこと。その後、改良を続けて半世紀以上も使われ続けましたが、その後継として開発されたのがこのAN/ALQ-249になります。
AN/ALQ-99の運用が始まったのは1972年のことで、最初の実戦参加はベトナム戦争でした。このときにEA-6B「プラウラー」電子戦機に搭載されて以降、1986年のリビア爆撃、1991年の湾岸戦争、1999年のバルカン戦争、2003年のイラク戦争など、アメリカ軍が参加する主な戦争に軒並み用いられています。
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「コープノース25」に参加している同じ飛行隊のEA-18G。こちらは従来型の電子妨害ポッドであるAN/ALQ-99を搭載。部隊として併用して演習に参加しているようだ(布留川 司撮影)。
ちなみに、ポッド自体は同じものが使われたワケではなく、初配備から10種類もの改良型が開発されており、アメリカ海軍の現役電子戦機EA-18Gでも使われ続けています。しかし、いかに改良を重ねても基本設計が古いためか信頼性が低く、加えてEA-18Gが装備した場合、機首に装備するAESAレーダーと干渉したり、航空機の最高速度が低下したりといった問題点が指摘されていました。
そこで、新たに開発が始まったAN/ALQ-249はそういった欠点を軒並みなくしており、「NGJ:次世代ジャマー」というそのものズバリな名称で開発・配備されましています。
では、既存のAN/ALQ-99と見比べた場合、どこが違うのでしょうか。外見上の一番の差は、ポッド先端の発電用のプロペラがなくなり、内蔵式に変わったことです。電子妨害ポッドは妨害するために電力が必要であり、AN/ALQ-249では先端のプロペラを回すことで発電しそれを電源としていました。
しかし、先端部にプロペラを装着していると、敵からレーダーを照射されたときに反射波を生み出し被発見率を上げてしまうほか、搭載機の速度低下といった悪影響もあったとか。そこで、AN/ALQ-249ではラムエア・タービンを内蔵し、使用時には側面のインテークを開放して発電することで、対レーダーと空力的によりメリットのある形状に改められています。
また、内部には機体の全周をカバーするために複数のAESAアレイが内蔵されており、AN/ALQ-99よりも長い距離で強力なジャミング能力があると言われています。
ただ、このようにプロペラのない形状になったがゆえに、一見すると燃料タンクかトラベルポッド、もしくは爆弾に思えるような外観になったのも確か。その点で秘匿性が高まったとも言えるかもしれません。
なお、AN/ALQ-249では、対応する周波数に応じて3種類のモデルの開発が進められており、今回の「コープノース25」で使われたALQ-249 NGJ-MB(ミッドバンド:2~6GHz)以外に、NGJ-LB(ローバンド:100MHz~2GHz)とNGJ-HB(ハイバンド:6~18GHz)の配備が予定されています。
2025年2月現在は、まだAN/ALQ-99とAN/ALQ-249が併用して運用されていますが、今後はすべての電子妨害ポッドがAN/ALQ-249ファミリーに置き換わる予定です。