フランス「絶ッ対に原子力空母手放しませんよ?」なぜ? 相次ぐ苦難も「シャルル・ド・ゴール」を就役させたワケ

フランス海軍の空母「シャルル・ド・ゴール」はアメリカ海軍以外で稼働している唯一の原子力空母でもあり、ある意味では「フランスの意地」が生み出した艦でもあります。
海上自衛隊は2月10日から18日まで、太平洋フィリピン沖の海空域において、アメリカ、フランスとの3ヵ国による共同訓練「パシフィック・ステラ―」を行いました。ここでフランス海軍は同軍の象徴ともいえる艦隊を派遣してきました。
フランス「絶ッ対に原子力空母手放しませんよ?」なぜ? 相次ぐ…の画像はこちら >>空母「シャルル・ド・ゴール」(画像:フランス海軍)
今回はなんとにフランス海軍の主力となる空母「シャルル・ド・ゴール」を中心とした空母打撃群を派遣したのです。フランス海軍の空母が、太平洋に展開するのは1960年代以来、約60年ぶりのこと。しかも同艦はアメリカ海軍以外で稼働している唯一の原子力空母でもあり、ある意味では「フランスの意地」が生み出した艦でもあります。
空母「シャルル・ド・ゴール」は、2001年に就役したフランス海軍の航空母艦で、同海軍初の原子力水上艦でもあります。艦名は、第二次世界大戦中のフランスの軍人で自由フランスの指導者、後にフランス大統領も務めたシャルル・ド・ゴールに由来しています。 第二次世界大戦よりも以前から、フランス海軍はすでに空母という構想を持ち、研究開発に着手しており、第一次世界大戦の終結により建造中止となったノルマンディー級戦艦「ベアルン」を空母として改装し、1927年5月に就役させていました。
しかしこの空母は第二次世界大戦時には既に旧式化しており、艦載機の問題も抱えていました。さらに、フランスがわずか1か月でドイツに敗北したことで、全く活躍の場がありませんでした。
戦後、本格的な空母運用が軌道に乗ったのは、1960年代初頭のことでした。このとき開発された初の国産新造である中型の空母が「クレマンソー」級です。1980年代になるとこの「クレマンソー級」の後継が望まれるようになり、生まれたのが原子力空母「シャルル・ド・ゴール」になります。
原子力空母という艦艇は1950年代からアメリカやソビエトを中心に開発競争が進められてきました。
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ドック入りする「シャルル・ド・ゴール」(画像:フランス海軍)
アメリカはその豊かな経済力を活かし、大型の原子力空母を次々に就役させましたが、ソビエトはいくつかの原子力空母が計画されましたが、実際に就役することはなく未完に終わっています。
フランスは同時期に原子力潜水艦の建造に取り組み、その技術を活かして空母の建設を開始しました。ソビエトが崩壊し、またアメリカ、フランス以外の国も当時まだ原子力推進の空母の建設には消極的だったため、結果、「シャルル・ド・ゴール」はアメリカ海軍以外での唯一の原子力空母となったのです。
ちなみに艦名の「シャルル・ド・ゴール」についてですが、当初ミッテラン大統領は「リシュリュー」とする予定でしたが、ド・ゴール主義の継承者を自認する後の大統領であるシラク首相(当時)の介入により艦名が変更された経緯があります。
冷戦終結直前から正規空母を持つことは国家の大きな負担となっていました。第二次大戦中、かなり数の空母を運用していたイギリス海軍ですら、1980年代に入ると、インヴィンシブル級という軽空母を運用する方針に切り替え国防費の節約を図りました。にもかかわらず、あえてフランスは原子力空母を選択したのです。
しかしフランスの原子力空母建造は順風満帆ではありませんでした。
「シャルル・ド・ゴール」は1994年に進水こそしたものの、その後原子炉の強度不足が発覚したり、また搭載を予定していたE-2C早期警戒機を運用するには甲板がやや短いことが発覚したりと就役はどんどん遅れていきます。ようやく就役か、と思われた2000年9月には大西洋を横断中に推進用のプロペラが破損。修理のためにドッグに入ってしまいました。
2001年にようやく就役したものの、その後も大きな問題を抱えることが確定していました。それは、計画開始当時1990年代初頭には2隻の原子力空母の就役が予定されていたのが、作業に遅延や予算上の理由から2番艦は計画のみで中止となっていたことです。これは空母運用にとってはかなり痛手です。
一般的に空母は、1隻が実任務に就き、1隻は整備、1隻は整備完了後の訓練用に保有するという3隻体制が理想的といわれ、艦隊を継続的に運用するためには、最低でも2隻が必要といわれています。「シャルル・ド・ゴール」は完成以前から、絶対に長期離脱を許されない“ひとりっ子空母”であるという使命を背負わされていました。
なぜフランスがここまで、原子力空母にこだわるのでしょうか。
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発艦しようとする「ラファールM」同機はフランスの核戦力の一翼を担っている(画像:フランス海軍)。
この背景には、海外領土の維持という目的があります。実はフランスはインド洋、太平洋にも海外領土を持ち排他的経済水域もかなりの面積です。
さらに、旧植民地であるアフリカ諸国への外交・軍事の影響力を維持するためにも重要です。こうした広大な領域を勢力圏として維持するには、長期間の航行に適した同艦が不可欠でした。
さらに、フランス海軍は空母に核戦力の役割も持たせています。
同艦に搭載されている「ラファールM」の一部が熱核弾頭を搭載する超音速巡航ミサイル「ASMP-A」の搭載能力を持っており、核攻撃の際は、敵勢力の防空網をすり抜けて打撃を与える役目を帯びています。
核弾頭搭載が可能な大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)を現状保有していないフランス軍にとっては、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と同じく、フランスの核抑止力を誇示する欠かせない戦力になっており、様々な状況に対応するため頻繁な洋上補給が不要な原子力空母は維持しなければなりません。
実は、2038年に「シャルル・ド・ゴール」と入れ替わる形での就役が予定として計画されているフランスの新空母も原子力空母で、1隻体制となる予定です。「シャルル・ド・ゴール」より大型となり、さらに経済的な負担も増えそうですが、海外領土と核戦力を維持する象徴として、同国は今後も原子力空母を意地でも運用するようです。

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