ロールス・ロイスが退役した戦闘機のエンジン部品をリサイクルするプロジェクトの詳細を発表しました。既存部品を細かくして3Dプリンターにより新たな部品を製造するようですが、これは日本も他人事ではないかもしれません。
航空機エンジンなどのパワープラントの開発と製造を手がけるロールス・ロイスは2025年2月5日、退役した戦闘機のエンジン部品をリサイクルする「Tornado 2 Tempest(トーネード2テンペスト)」プロジェクトの詳細を発表しました。
戦闘機の部品「3Dプリンターで造りました!」何がメリット? …の画像はこちら >> 日英伊が共同開発する次世代戦闘機GCAPのイメージイラスト(画像:BAEシステムズ)。
イギリス空軍は2019(令和元)年まで、ロールス・ロイスが開発と製造に参加した、ターボウニオン「RB199-34R」ターボファン・エンジンを動力とする、「トーネードGR.4/4A」戦闘攻撃機を運用していました。
Tornado 2 Tempestプロジェクトは、退役後保管されているRB-199-34Rエンジンの低圧空気圧縮機のコンプレッサーブレードなど、希少価値の高いチタニウム合金を大量に含む部品を洗浄した上で粉末化し、それを材料に3Dプリンターで小型ターボファン・エンジン「オルフェウス」の部品を製造するプロジェクトで、ロールス・ロイスによれば、既にオルフェウスのノーズコーンとコンプレッサーブレードの製造に成功しているとのことです。
イギリスは2022年7月に、戦闘機「テンペスト」の技術実証機を5年以内に飛行させると発表しており、オルフェウスをベースとするターボファン・エンジンはテンペストの技術実証機や、次世代戦闘機を中核とする航空戦闘システム「FCAS」に使用される予定となっています。
イギリスは日本、イタリアと新有人戦闘機を開発するプロジェクト「GCAP」を進めています。GCAPで開発される有人戦闘機のエンジンは日英伊が協力して開発しますので、オルフェウスがそのまま使用されるわけではないのですが、イギリスで新有人戦闘機のエンジンを主導するロールス・ロイスのリサイクルというアイデアは、新有人戦闘機のエンジンにも応用される可能性があります。
イギリスはテンペストの製造に3Dプリンターで製造した部品を積極的に活用していく方針を示しており、2022年7月に開催されたファンボロー・エアショーでは、3Dプリンターで製造された、テンペスト用の試作部品が公開されています。
この展示を行ったBAEシステムズは、トーネードGR.4/4Aの無線機のカバーなどの部品を3Dプリンターで製造し、コスト削減に成功しています。このため筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)はコスト削減を目指すために、テンペストにも3Dプリンターで製造した部品が活用されると思っていました。
しかし、BAEシステムズの担当者は、3Dプリンター製部品を活用するメリットについて「開発・製造コストの低減にも寄与するが、最大のメリットは、運用期間中の戦略環境や戦闘様相の変化に対応するための仕様の変更に迅速な対応が可能であること」だと述べていました。
GCAPで開発される新有人戦闘機は長い運用期間が予想される上、日英伊や他の導入国がある程度独自に改良できる戦闘機であることが求められます。3Dプリンターで製造された部品は、従来の工法で製造された部品に比べれば容易に仕様が変更できます。BAEシステムズの3Dプリンター部品の活用はあくまでもテンペストの話でしたが、その技術はGCAPの新有人戦闘機の開発・製造においても有効だと筆者は思います。
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飛行試験でJAS39グリペンに装着された3Dプリンター製の外装パネル(画像:サーブ)。
韓国は、2026年の就役開始を目指して開発を進めている国産戦闘機「KF-21」に3Dプリンター製部品を使用することを明らかにしています。
以前、韓国がロッキード・マーチンと共同で開発した超音速練習機T-50の国産化率は59%でした。韓国はKF-21では国産化率を65%にまで引き上げることを目標としており、従来の航空機部品の製造ラインに比べて設置にかかるコストが安く、それゆえに企業の参入ハードルが低い3Dプリンター製の部品を使用するようです。
スウェーデンの航空機メーカーであるサーブは2021年3月、JAS39「グリペン」戦闘機に、3Dプリンターで製造した外装部品を装着して飛行試験を行っています。これまでも3Dプリンターで製造された部品の航空機への使用は増加していますが、飛行中に生じる摩擦熱や衝撃に対する耐久性の実証データが少ないことから、高速で飛行する戦闘機の外装部品への使用例はあまり多くありませんでした。
サーブは試験後に行った検査において、3Dプリンター製の外装パネルに構造上の変化は生じなかったと発表しています。同社は3Dプリンター製部品の活用の幅が広がれば、部品の調達に要する時間と修理に要する時間が短縮されると期待を寄せています。
軍用機における3Dプリンターで製造した部品の活用にあたっては、ハッカーが3Dプリンターを制御するコンピューターに侵入して意図的に欠陥を組み込み、部品の強度を弱める危険性があることなど、解決しなければならない課題も多いのは事実です。しかし、これまで述べてきたように新造においても修理においてもメリットが大きく、今後も活用される事例は増えていくものと思われます。