自民、公明、日本維新の会の3党が高校授業料無償化に合意した。
合意文書案によると、2025年度から国公私立で年収を問わず全世帯に年11万8800円の就学支援金を支給する。
私立への支援金は26年度に所得制限をなくし、現行の年39万6千円から45万7千円に引き上げる。
維新が、私立の所得制限を撤廃した上で、上限額を引き上げるよう与党に求めていた。
無償化によって、保護者の教育費負担が減り、子どもの進学先の選択肢が広がるのはいいことだ。しかし懸念されることも多い。
無償化で私立に生徒が流れ、「公立離れ」が進む可能性がある。24年度、高校3年生の授業料を実質無償化した大阪府では、私立の志願者が過去20年で初めて3割を超え、逆に公立校の半数が定員割れした。
授業料が補助されることで私立の「便乗値上げ」の恐れも指摘される。
また支援は高所得者世帯にも及ぶため、教育格差を広げかねない。
教育現場は今、さまざまな課題に直面している。長時間労働などを背景に精神疾患による教員の休職が増え、人手不足が問題になっている。不登校や貧困、ヤングケアラーなど複雑な事情を抱えた子も増加している。
子どもの教育を受ける権利を保障するために何が必要か考えたとき、私立を含めた高校無償化が優先度の高い政策なのか、疑問なしとしない。
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高校無償化が都市と地方の格差を広げるのではないかという懸念もある。
全国に約1300校ある私立高校の多くは東京や大阪など都市部に集中している。
県内は、通信制を除き、公立59校に対し私立は6校。私立の生徒数は公立の1割に満たない。無償化の恩恵は一部に限られる。
逆に、県内でニーズが高いのは給食費の無償化だ。 食材費高騰の影響を受け、半数以上の市町村が来年度、中学校の給食費の値上げを予定している。中学校の給食費を月額1人当たり千円以上引き上げる自治体もあり、家計への影響は大きい。
3党は、給食無償化に関しても合意し、「まずは小学校を念頭に26年度に実現する」という。
高校無償化の関連予算総額は年約5500億円、全国公立小中学校の給食費は年4832億円。
地方の声が置き去りにされていないだろうか。
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高校無償化は、自民・公明が維新に歩み寄った格好だ。教育の質や地域格差の議論はほとんど聞こえてこなかった。
新年度予算を通すための少数与党政権の妥協が目に付いた。
教育費負担は授業料だけに限らない。教材費や通学費、部活の費用など多岐にわたる。県内は、困窮世帯が多く、かつ離島県で県外に進学する際の負担が大きい。地域の声を聞き、地域の事情に配慮が必要だ。