去年の衆院選は「合憲」と東京高裁…“4人の弁護士”らが提起した「重大問題」に裁判所はどう“答えた”のか

2024年10月に行われた衆議院議員選挙が、議員定数配分の不均衡により「違憲・無効」であるとして、三竿径彦(みさお みちひこ)弁護士らのグループ(越山グループ)が、東京都内の4つの小選挙区、および比例代表選挙東京ブロックの選挙無効の判決を求めた訴訟で、13日、東京高裁は請求棄却判決を言い渡した。
原告は、小選挙区の定数配分に以下2段階の問題が含まれていると主張した。
①47都道府県への「定数配分」の不均衡(区画審設置法3条2項参照)
②同一都道府県内の「区割り」の不均衡(同3条1項参照)
これに対し、裁判所は、いずれも合理性が認められ合憲であると判示した。
国会の「裁量」を広く認めるアプローチは“変わらず”原告の「越山グループ」は、越山康弁護士(故人)らが1960年代から始めた定数不均衡訴訟の活動を引き継ぎ、衆議院議員選挙のたびに訴訟を提起してきた。もう一つの「升永グループ」(升永英俊弁護士、久保利英明弁護士らが主導)とともに、議員定数不均衡の問題に取り組んできた。
裁判所はその都度、原告の請求を棄却した。しかし、時に判決理由のなかで選挙の「違法」と宣言し、あるいは国会の態度を批判してきた。その結果として、少しずつではあるが議員定数不均衡の問題が是正されてきたという実績がある。
ただし、裁判所は一貫して国会の裁量を広く認めるアプローチをとっている。
今回の東京高裁判決も、先例である複数の最高裁判決を挙げて「投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではない」とし、「それ以外の要素(地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況等)についても、合理性を有する限り、国会において考慮することが許容されている」と判示している。
訴訟提起の理由は「民主主義と個人の尊厳のため」現状、定数不均衡の問題を司法の場で争う手段は、選挙が行われた後にその結果を受けて選挙の効力を争う「選挙無効の訴え」(公職選挙法204条)に限られている。
判決後の記者会見で、「越山グループ」を率いる三竿弁護士は、選挙のたびに訴訟を起こしてきた理由について語った。
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三竿径彦弁護士(13日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

三竿弁護士:「私たちはあくまで、議員定数不均衡が民主主義と個人の尊厳に反し、是正してもらいたいから訴訟を起こしているのであり、選挙をやり直せと求めているわけではない。
国会議員1人1人が国会で投じる一票の背後には国民がいる。各議員が代表する国民の数が違い、一票の重さがバラバラだったら、その状態で行われた多数決は民意を適正に反映しているとはいえない。国民の多数決、民主主義とはいえない。
また、憲法は『個人の尊厳』を最高の価値とし、国民1人1人を大切にすることを基礎としている(憲法13条参照)。
ところが、裁判所も国会も大雑把に『1票の格差が2倍以内ならいいんじゃないか』としてしまっている。『人口以外のものを考慮に入れていい、唯一の基準じゃない』『不合理でなければいい、国会が決めればいい』で終わっている。
個人の尊厳ではなく、それ以外のものを重視してしまっている」
“47都道府県”への定数配分の「アダムズ方式」を「適法」と判断原告が小選挙区の区割りの違憲性について主張した2つの論点のうち、「①47都道府県への『定数配分』の不均衡」の問題は、今回の衆院選から採用された「アダムズ方式」が不合理だとするものである。
最高裁は2011年(平成23年)3月23日判決のなかで、従来の「1人別枠方式」を見直す必要性があると警告した。これを受けて国会は2012年、 法改正により「1人別枠方式」を廃止し、「アダムズ方式」(※)を採用した。
※都道府県の人口数をある数「x」で割り、その商の小数点以下を切り上げた数を各都道府県に定数として配分したら、その合計が総定数とほぼ同じ数になるような「x」を見つけ、それにより各都道府県への配分定数を確定する方式(出典:高橋和之「立憲主義と日本国憲法 第5版」(有斐閣)P.364)
「アダムズ方式」導入前の「1人別枠方式」では、あらかじめ各都道府県に「1議席」ずつ割り振り、残りの議席を都道府県の人口数に比例配分していた。人口の少ない都道府県に有利な配分が行われやすいという問題があった。
これに対し「アダムズ方式」では、計算の結果「1」未満の小数点以下の「端数」が出たら「1」に切り上げるという処理を行う。端数が出ないケースはほぼあり得ないので、事実上、全都道府県に「端数切り上げ」の処理により定数が「+1」ずつ配分されることになる(【図表】参照)。

【図表】都道府県別の定数配分とアダムズ方式の「商」の関係(原告訴状をもとに弁護士JP編集部作成)

原告は、「アダムズ方式」が数理学的な根拠のある確立された方式であること自体は評価しつつも、上述の「端数切り上げ」の点に関しては「1人別枠方式」を事実上温存し、人口の少ない県を優遇するものであり、不合理だと主張している。
しかし、これに対し東京高裁は、「アダムズ方式」の採用を提案する答申を行った「選挙制度調査会」において他の方式との比較も含め議論がなされたこと、10年ごとの国勢調査により是正がなされるしくみになっていることなどを理由として、「合理性がある」と判示した。
「充実した審理をすべきだ」原告の國部徹(くにべ とおる)弁護士は、本件判決の判断手法を批判する。

國部徹弁護士(13日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

國部弁護士:「判決は『アダムズ方式』そのものの問題について正面から答えていない。
(被告である)選挙管理委員会の主張をそのまま採用し、『将来に向かって安定的な方式で、採用の経過が不合理ではなかった』と述べているのみだ。
その選挙管理委員会の主張が依拠しているのは、公表されている選挙制度調査会の議事要領だと考えられる。しかし、そこではどのような経過で議論がされたのか、誰が何を発言したかが明らかにされていない。当時の調査会メンバーの証人尋問等をしたいが、訴訟は1回で結審するうえ、証人申請しても採用される見込みがほとんどない。
選挙訴訟の『100日裁判』のルール(※)を意識してのことと思われるが、それは選挙が無効となった場合の再選挙を早く行うためのルールであり、本件訴訟には妥当しない。重要な憲法問題が対象となっているのだから、充実した審理をすべきだ」
※裁判所が事件の受理から100日以内に裁判するよう努めなければならないというルール(公職選挙法213条参照)
原告は定数不均衡に「2段階の問題」があると主張したが…東京高裁の判決は、原告が訴訟で取り上げたもう一つの問題点「②同一都道府県のなかでの『区割り』の不均衡」についても「合理性が認められる」と判断した。
三竿弁護士は、裁判所が事実上この問題に答えていないと指摘する。
三竿弁護士:「第1段階の『各都道府県への定数配分』と、第2段階の『同一都道府県のなかでの区割り』とは、本来別の問題で分けて論じるべきなのに、判決ではそれが行われていない。
実際には、第1段階で格差が縮小されたのに、第2段階で格差が増大しているという重大な問題も生じている(※)」
※京都府(一番大きい選挙区人口と一番小さい選挙区人口の倍率が1.97倍)、茨城県(同1.91倍)、北海道(同1.86倍)など(原告側主張より)
また、原告復代理人の永島賢也弁護士は、判決が人口以外の要素、とりわけ「住民構成」を考慮してよいとしていることは憲法上、問題が大きいと説明した。

永島賢也弁護士(13日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

永島弁護士:「男女比率、年齢、年収、家族形態などにかかわらず、法律の前ではどのような属性の人であれ平等に扱われなければならない。
区割りにおいて、住民構成のうち、いったいどの属性を考慮することに合理性があるのか、問われるべきだ」
本件訴訟では他にも、比例代表選挙について定数配分や小選挙区との「重複立候補」の違憲の主張も行われたが、いずれも退けられた。
本件訴訟を通じて原告が提起している問題は、いずれも「民主主義」「個人の尊厳」「法の下の平等」など、憲法の基本原理に関わるものである。原告らは本判決を不服として上告する意向を明らかにしており、年内の早い時期に最高裁の判断が下されることが想定される。

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