2024年「司法の不祥事」相次ぐ…弁護士・裁判官・警察官・検察官が行った“世紀末”的な違法行為とは?

2024年も法律にまつわるさまざまなニュースがあったが、企業による不祥事なども相次ぐなか、メディアでコメントする機会の多い杉山大介弁護士は「司法に関わる者たちが大いに恥をさらした1年でもあった」と話す。
弁護士、裁判官、警察官、検察官――。司法の重要なポジションに身を置く人物らが、どのような“事件”を起こしたのか。
印象に残ったニュースについて振り返ってもらった。(本文:弁護士・杉山大介)
世紀末のようなありさま例年、私はその年のニュースを総括して弁護士の目線からコメントを行っている。今年は法律絡みの不祥事も特に多く、違法なことをしたという当事者が弁護士、裁判官、警察官、検察官とまるで世紀末のようなありさまだった。
そこで、弁護士として各ニュースをどう見たか、振り返っていきたい。
大手法律事務所「弁護士」が不同意性交の疑い4月1日、うそのようなニュースが飛び込んできた。同日までに、警視庁が不同意性交の疑いで弁護士と中央区職員を逮捕したというのである。
本件は、不起訴で終わっており、弁護士が有罪であった、犯罪であったと確定したわけではない。ただし、当時所属していた大手法律事務所は離れることになっており、間違いなく当事者のキャリアはそれまで通りに行かなくなっているだろう。
今年、弁護士が逮捕されたニュースは複数ある。ただし、法人税法違反や、非弁提携(※)という問題に絡んだ詐欺罪といった話は、ある意味で弁護士業界特有の問題なども絡んでおり、一般人が関係するものではあまりない。ただ、今回ピックアップしたニュースは、不同意性交との関係で、私からも強いメッセ―ジを伝えたいと思うものであった。
※ 弁護士や弁護士法人が、弁護士業務を行う資格がないとできない領域を逸脱して仕事を行わせること
それは、「男女複数で、酒の席から性行為へ」という展開を、現代では絶対にやるべきではないということである。
不同意性交において「犯罪であったか」の評価方法は、おおむね固まってきている。その人が同意していたかなどといった水掛け論では結論が出せないので、基本的には「一般的に同意があり得るシチュエーションだったか」というところから判断することになる。
そうすると、酒の席において、男性複数対女性少数で、一般的に同意することがあり得るかというと、司法は「一般的にあり得ない」と評価することになる。
私も日々、事件に触れる中で、さまざまなコミュニケーションの流れがあり得ることは理解している。しかし、仮にその場では双方乗り気であったとしても、翌日シラフに戻って「嫌だ」「気持ち悪い」と思ったら、そこで犯罪の訴えは可能だし、同意が一般的にはあり得ないシチュエーションだとも評価される可能性が高い。
つまり、現在の刑法は、「集団の飲みの席でそのまま性行為をするな」と命じているに等しい。
弁護士ですら、そのリスクを軽視していた「夜遊び」について、あらためて世間の皆さまには注意を喚起するとともに、不本意な性行為に巻き込まれる人が一人でも減ることを願うばかりである。
「裁判官」がインサイダー取引疑い10月19日、証券等取引委員会が、金融庁出向中の裁判官に対して、インサイダー取引の疑いで強制調査を行ったという話が出てきた。こちらの事件は在宅起訴段階であり、現時点で犯罪行為があったと断じられるわけではない。
しかし、報道からすると、過去にも株の取引履歴がある者が、金融庁に出向して株式公開買い付け(TOB)に関する情報を得られる立場になった後で、その銘柄の取引を繰り返すようになっていたという事実があるようである。
主観面や、秘匿性の高い行為を立証する時は、直接立証する手段がないことから、その前後の重要な事実の立証をもって、法の適用に必要な事実が立証できていると考える。本件も、情報の取得と利用という、前後の部分が固いとすると、インサイダー取引としての認識などは立証されたと評価されることになる。
しかも、取引の傾向変化は評価がともなうので、ともかくTOB取引が行われていることが間違いなさそうであれば、犯罪はあったものと評価されてしかるべき状況に、すでに至っている。現状、私は不正があったものと考えている。
実はこのニュースを見た時、私は裁判官の不正として真っ先に連想したものがあった。それは、司法修習時代に、全員ではなくとも一部の裁判官候補者によって、間違いなく行われている不正のことだ。
司法修習には、起案と呼ばれる試験がある。司法修習修了時を含めて複数回、受ける機会があり、評価もつく。その評価は、裁判官への採用などにも影響するものと考えられており、上位評価であることが期待されているのも事実だ。
この試験で用いられる事件記録は、実際の事件をもとにしていることから個人情報の漏えいなどを防ぐため複写などが禁止され、修習修了時には回収処理などされている。ところが、裁判官になろうとする上位成績希望者の間で、代々「過去問」が出回っているのである。
あくまで司法修習のためだけに、秘伝として管理されており、漏えいのリスクはかなり低いから良いといった思考なのだろう。ただ、裁判官になる前の第一歩から、仕事に就く、成績において他人を上回るという個人的な利益のために、不正を働いている者がいる。この事実を知っていれば、裁判官がインサイダーと聞いても、「やるやつもいるだろうなあ」と思ってしまうのである。
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東京・霞が関にある金融庁(hamazou / PIXTA)

「警察官」(鹿児島県警察)による内部告発つぶし5月31日、鹿児島県警の元生活安全部長が国家公務員法違反で逮捕された。もっとも、この日の報道では、内部通報つぶしの文脈では語られていない。あくまで警察職員が犯罪を行った不祥事があったと、後に告発される側だったと発覚する側が発表しており、報道機関もいつものごとく、警察からもらった情報をそのまま垂れ流していた。
様相が変わってくるのは、6月5日頃である。元生活安全部長が、その背景にあった鹿児島県警の隠蔽(いんぺい)体質と情報告発の動機を語り、文書を託された北海道の記者が事情を語るなどしていくことにより、鹿児島県警が再審や国家賠償訴訟において不利にならないよう捜査情報の破棄を推奨していたことや、さまざまな警察関係者が関与する事件について隠蔽の画策があったことなどが示されていった。
本件で特に恐ろしいと感じたのは、隠蔽体質があったこと以上に、その隠蔽を実効ならしめるべく、メディアや職員に対しても容赦なく、法に基づく捜査の建前をとった、積極的な攻撃が行われたことだ。隠蔽という、ただ消極的であるよくある公的機関の保身体質を超えて、自らの権限を自由に行使できるという、暴力性・攻撃性があらわれている。
自分たちの不正を追及しているメディアがいるから、そこに捜索差押に入ろうなどという発想は、軍国主義か独裁国家の世界でなければ本来生まれるものではない。少なくとも、大っぴらにやって良いものではないという「恥」の概念があった。しかし、鹿児島県警は、そのような「恥」という意識すら失う極めて危険で慢心した状態にあったと言える。
内部告発を巡っては、兵庫県でも権力のすさまじい暴力性・攻撃性があらわれている。何らかの不正があったかのような形式的な建前のもと、告発を受けた側によって権限が行使され、告発者側の生活が脅かされ、ついには死人に口なしとばかりに選挙でデマがばらまかれる。
中国では、2200年以上前、始皇帝や項羽と劉邦の時代に、権力者が鹿を馬であると述べ、それを馬だと認めた者は生き、鹿だと述べた者は殺されるという事件が起きた。馬鹿の語源である。
私たちは、「馬鹿」の時代に再び生きることになりかねないことに対し、恐怖を覚えるべきではないだろうか。

鹿児島県警察本部(koji / PIXTA)

「検察官」による証拠捏造や違法行為の指摘が相次ぐ袴田事件再審無罪などが、今年の重大ニュースであることは、議論の余地がない。こちらの話題については、別途記事【袴田さん再審無罪は「2024年を“象徴”する判決」 証拠のねつ造、えん罪…捜査機関の“無謬神話”崩れた1年】にて言及しているため、詳細は割愛する。
ただ、袴田事件の再審無罪の判決文では、検察官による証拠や事実の捏造(ねつぞう)などが指摘された。8月には現職検察官の罪を問う付審判請求が史上初めて認められ、10月には福井女子中学生殺害事件の再審が決定するなど、裁判所が積極的に、問題を問題だとはっきり宣告し非難してくれているところには、一定の希望も見いだせると感じる。
人が誤るという当たり前を受け入れる社会であるべきこうして、司法に関わる重要な立場にあるものたちの不祥事ニュースが並んだ2024年。ただ、記事冒頭に偽りありかのようで恐縮だが、これを世紀末と嘆くべきではないのかもしれない。人が関わる場面では、たとえどれだけ高い倫理が求められる職位などが設けられていても、不正は行われる。だから、そのような人によるエラーを正しく措置し、ケアしていける社会やルールでなければならないと考えるべきではないだろうか。
無謬(むびゅう)性のような信仰を捨て、人を過大評価せず、ありのままに受け入れられる。そんな社会を求めて、私もまずは司法の領域から、等身大のコメントを今後も発していきたいと考えている。

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