オーストラリア海軍が進めるフリゲート後継艦の最終候補に、日本の提案が選ばれたことを受け、政府が受注獲得に向けた「官民合同推進委員会」を開催しました。過去の失敗を踏まえ、日本政府の意気込みを示す事象といえるかもしれません。
オーストラリア海軍が運用しているアンザック級フリゲートの後継艦導入計画の最終候補に日本の提案が選ばれたことを受けて、日本政府は2024年12月13日、受注獲得に向けた「官民合同推進委員会」の初会合を防衛省で開催しました。
「護衛艦輸出こんどは成功させるぞ!オー!」政府の気合が絶対必…の画像はこちら >>オーストラリアのアンザック級フリゲート。後継の最終候補に日本の提案が選ばれている(画像:オーストラリア国防省)。
オーストラリア海軍は2024年12月現在、アンザック級フリゲートを7隻運用していますが、各館とも艦齢が28年から18年に達しており、後継艦の導入計画を進めていました。
三菱重工業はこの計画に対し、海上自衛隊が運用しているもがみ型護衛艦の能力拡張型「令和6年度護衛艦」をベースとする新型艦艇の共同開発を提案。韓国とスペインの提案を退け、三菱重工業の提案と、ドイツのブローム・ウント・フォスの提案が11月25日に最終候補として選定されています。
12月14日付の読売新聞は、アンザック級フリゲート後継艦の事業規模が1兆円程度になると報じており、日本政府としても国内企業としても、ぜひ受注を獲得したいと思うところでしょう。
日本の提案の主体は三菱重工業なのですが、防衛装備品の海外移転には日本政府のバックアップが不可欠です。令和6年度護衛艦の建造には三菱電機や日立製作所などの企業も携わっていますので、これら関係企業とも意思統一を図り、協力を得ていく必要もあります。
官民合同推進委員会の共同委員長には防衛省の増田和夫防衛次官と、三菱重工業の泉沢清次社長が就任。関係企業の幹部も出席しています。中谷 元防衛大臣も委員会に出席し、「オーストラリアにとってベストな選択となる提案ができるよう、オールジャパンで取り組んでいきたい」と意気込みを語ったと報じられています。
筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は、中谷防衛相が言う「オールジャパン」体制で受注を獲得する上で、必要なことだと思います。
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日本が過去にオーストラリアへ提案したそうりゅう型潜水艦の最終艦「とうりゅう」(画像:川崎重工業)。
官民合同推進委員会の数日前、12月上旬に筆者は、もがみ型や令和6年度護衛艦の建造にも関与する企業の幹部と面談したのですが、その時点では「自分の知る限り、オーストラリアへの令和6年度護衛艦の共同開発の話は来ていない」と語っており、正直な話、少し心配になってしまいました。
前にも述べたように、アンザック級フリゲートの後継艦を受注したいのであれば、関係企業と意思を統一し、協力を得ることが不可欠です。官民合同推進委員会には筆者が面談した企業の幹部も招聘されていましたので、ひと安心といったところでしょう。
また前出した読売新聞の記事は、「日本は、オーストラリアの新型潜水艦の共同開発を巡り、実現目前でフランスに受注を奪われた苦い経験がある」とも報じています。この苦い経験が、官民合同推進委員会の設置につながったと筆者は思います。
苦い経験とは、オーストラリア海軍が現在(2024年12月)も6隻運用するコリンズ級通常動力攻撃型潜水艦の後継艦をめぐる話のことです。同級は不具合も多く老朽化も進んでいたことから、2010年代前半、オーストラリア政府は後継となる通常動力攻撃型潜水艦の導入計画を進めていました。
この頃、日本とオーストラリアは防衛協力で急接近していました。またコリンズ級後継艦に戦闘システムの提供を予定していたアメリカの後押しもあって、そうりゅう型潜水艦をベースとする日本の提案が採用される可能性が高かったのですが、結局はフランスの提案が採用されたという経緯がありました。
その後オーストラリアは、アメリカ、イギリスとの軍事同盟「AUKUS」の一環として原子力推進の攻撃型潜水艦へと導入方針を変更したため、フランスの提案も採用には至っていません。ただ、勝利目前と見られていた商戦でフランスに敗れたことは、やはり日本にとって「苦い経験」だったのでしょう。
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オーストラリア海軍のコリンズ級潜水艦「コリンズ」。フランスが受注した後継艦の計画は実現に至らず(画像:コックムス)。
コリンズ級後継艦の受注が獲得できなかった理由は複合的なものですが、オーストラリアが雇用の確保などの観点から国内での建造を希望していたにもかかわらず、海上自衛隊の一部が防衛機密の保護を理由に難色を示し、完成艦の輸出にこだわったことも、不利な要素の一つになったのではないかと筆者は思います。
そうりゅう型潜水艦の建造は三菱重工業と川崎重工業の2社が行っており、オーストラリアにそうりゅう型をベースとする提案をするであれば、両社が足並みを揃える必要がありました。しかし、三菱重工業が積極的であったのに対し、川崎重工業はやや及び腰だったという印象を筆者は受けましたし、それも商戦で不利になったのではないでしょうか。
アンザック級後継艦の商戦で、官民合同推進委員会がこれらの問題をどこまで解決できるのかは未知数ですが、本気で商戦に勝ち抜き、受注を得たいのであれば、これらの「苦い経験」を無駄にしないで欲しいと思いますし、官民合同推進委員会はそのためにあると筆者は思います。