セクハラ「飲みの席だから」は許されない…女性職員らの被害申告で“スピード解雇”、不服訴える男性次長を裁判所が一蹴

「俺が抱きたいと思うような女になれ」
「胸も普通にあるし80点くらいだと思うよ」
「僕が初めてSEXしたのは●歳だったんだよ」
知らねーよっ!
って感じであるが、これらはセクハラ上司Xさん(男性)が女性職員らに放った言葉だ。
セクハラで解雇がOKになることは少ないが、裁判所は「セクハラの自覚がないので改善の見込みが低い」旨述べて「解雇OK」と判断した。(東京高裁 R4.5.31)
なお、この判決では肩や背中をポンッとたたくこともセクハラとして認定されている。ご注意ください。
以下、事件の詳細だ。
事件の経緯会社は、診療所を経営する医療法人であり、セクハラを働いたXさんは、次長として診療所の運営業務に従事していた。次長の役職は高く、理事長および事務長に次ぐ管理職であった。
■ 過去のセクハラ事件
今回の事件が起きる約6年前のことである。Xさんが採用されてから1年たったころ、女性職員3人がXさんのセクハラを会社に申告した。
3人が訴えたセクハラ内容は、▼プリンターの操作を教える際にわざわざ手を添えてくる▼カギを渡す際、ほぼ毎回、手を重ねてくる▼頭をなでてくる▼「交際相手はいるのか?」と聞いてくる、など。
■ 女性職員が退職
代表者を交えた話し合いが行われ、いろいろと一悶着(ひともんちゃく)があったのち、翌月にはセクハラを訴えた女性職員3人全員が退職している。会社からすれば大打撃である。
代表者が注意したところ、Xさんは謝罪し「言動に注意する」旨述べた。
■ 今回のセクハラ事件
6年の時を経て、再びXさんのセクハラが発動した。Xさんが職員に声をかけて飲み会をすることが多くなり、女性職員の話によると「週1回は開催される」とのことであった。・・・ウザすぎる。
このころからのセクハラ言動を、以下、判決文から抜粋&要約する。すべて女性職員に対するものであり、飲み会での言動も含まれている。
・セクハラ発言①
Xさん「たとえばみんなでドライブに行ったときに良い秘湯があって『せっかくだから入ろう』となったら入れるか?」
女性職員「いいですね、入りたいです」
Xさん「混浴でだよ」
・セクハラ発言②
Xさん「自分に自信がないの? なんで? 色も白いし、細いし、胸も普通にあるし80点くらいだと思うよ」「俺が抱きたいと思うような女になれ」「入社したときよりもイイ女になっていると思うよ」
・セクハラ発言③
Xさん「みんな入社したときよりも断然イイ女になってるよ。●さんもイイ女だったでしょ。俺はみんなここに入ってイイ女になってほしいと思ってるんだ」
・セクハラ発言④
Xさん「しんどいの? 生理か」
・セクハラ発言⑤
Xさん「彼氏はいるのか?」「結婚を考えているのか?」
・セクハラ発言⑥
Xさん 「僕が初めてSEXしたのは●歳だったんだよ。男はすぐにSEXしたくなるから」
・身体的接触①
雑談が終わったあとに「頑張ってね」と言いながら手の指先で女性職員のに触れる
・身体的接触②
女性職員が座って仕事をしているときに、手のひらでポンとたたくように肩や背中に触れる
・・・指先で女性のに触れるなど、売れっ子のホストにしか許されていない行為だ。
■ もう耐えられない!
ということで、複数の女性職員が代表者に助けを求めた。「Xさんからセクハラを受けている」「週1回の飲み会に参加するよう言ってくる」と申告したのである。
すぐさま代表者がヒアリングしたところ、Xさんは一部発言等を認めたものの「セクハラの意図はなかった」との弁明を繰り返した。
■ 解雇
ヒアリングしたその月に、会社はXさんに解雇を言い渡した。かなりのスピード解雇だ。
そして、Xさんは「解雇は無効だ」と主張して提訴した。
裁判所の判断Xさんの敗訴である。地裁も高裁も「解雇はOK」と判断した。
■ Xさんの反論
裁判でXさんは「セクハラはしていない。仮にセクハラにあたるとしても、発言内容は日常会話の延長や酒席でされたものであり、業務上の指導におけるひとつの表現方法であるし、身体的接触も、性的羞恥心を著しく害するものではない」と主張した。
しかし裁判所は、以下のとおり一蹴している。
・混浴に入る度胸があるかを聞いたり、「イイ女になっている」などの発言は不必要な性的表現であり、指導や実績の評価をしているとは理解しがたい
・まして、自分の性的体験を露骨な性的表現を用いて語ったり、「生理か?」などの発言をしているが、これが一般的に不快であることは明らか
・指先で女性職員のに触れたり、肩や背中をポンとたたくことも、不快感・嫌悪感を抱かせるに足りる行為であり、実際に女性職員は強い嫌悪感を抱いていたのであるから、性的羞恥心を著しく害する
そして裁判所は、上記のとおりセクハラ行為が著しく不適切であることに加え、▼次長として職場環境を改善する立場にあったのにこのようなセクハラをしている▼Xさんが「セクハラの意図はなかった」などの弁明を繰り返しており本人にセクハラの自覚がないため改善される可能性が低かった▼職場が小規模で事務職員がすべて女性のため配置転換が難しかった、などの理由から「解雇OK」と判断した。
最後にほんの10年くらい前までは相当ひどいセクハラでも解雇はダメとされていた。ひとつ紹介すると、平成21年(2009)の事件では、社内旅行の宴会で上司が女性部下に「私のひざに座ってビールを注いでくれないか」「胸か大きいね、何カッフかな」「犯すぞ」などと発言して解雇されたが、裁判所は「解雇は無効」と判断したのである。(Y社(セクハラ・懲戒解雇)事件:東京地裁 H21.4.21)
しかし、現在はセクハラに厳しい視線が向けられているので、上記発言をすれば解雇OKと判断される可能性があるだろう。「肩や背中をポンッ」なども避けたほうがいい。男性上司からすれば咤(しった)激励のつもりだろうが、「きゃっ! ポンッされてうれしい!」などと思う女性は、い・な・い(合掌)

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