2024年から部隊配備が始まったボーイングF-15戦闘機の最新型F-15EX「イーグルII」。実はF-15シリーズは1970年代に開発されました。なぜ、いまさらステルス性のない古めかしい機体の派生型を導入したのでしょうか。
2024年からアメリカ空軍で部隊配備が始まったF-15EX「イーグルII」。実はベース機となっているF-15は、1970年代に開発されたモデルです。第5世代戦闘機F-35「ライトニングII」の量産も進むなかで、なぜとても古い機体を、派生型とはいえ新たに導入しているのでしょうか。登場から1年が経過した今、あらためてF-15EXの出現に至った背景をまとめてみましょう。
「半世紀前に生まれた戦闘機を“最新鋭”に!」 F-15ファミ…の画像はこちら >> アメリカ空軍で運用の始まったF-15EX「イーグルII」(画像:アメリカ空軍)。
アメリカ空軍は、長らくF-15「イーグル」 とF-16「ファイティングファルコン」の2機種を主力戦闘機として運用してきました。そのため、当初は前者の後継機としてF-22「ラプター」を381機、後者の後継にはF-35「ライトニングII」を1763 機、それぞれ導入する計画でした。
ところが、F-22の価格高騰とF-35の開発遅延というアメリカ空軍にとっては頭の痛い問題が発生します。これを受け、段階的に削減されてきたF-22の配備数も最終的には187機にまで減らされてしまいました。それにともない、F-22の機数が減少するたび、F-15の退役時期が先延ばしになるという状況に陥ります。
そこで空軍は「ゴールデン・イーグル・プログラム」と呼ばれるF-15の延命計画を開始しました。
それは、米空軍が保有するF-15のなかから、状態のよい200機を選んで2030年まで使い続けるというもの。ただ、同空軍が使用するF-15は、最も新しい戦闘爆撃機型のF-15E「ストライクイーグル」でも2001年に製造されたものです。しかし、それら比較的新しい機体でも各部の構造疲労が予想以上に進んでいることが判明したため、後継機の導入が早急に必要となりました。
その課題を解決するため、国防総省では様々な案が検討されました。その時に最も重視された条件が早期に導入できることでした。
そこで、F-15の生産ラインがまだ稼働し続けていたことが。関係者の注目を集めます。米空軍向けのF-15の生産は前述したように2001年に終わっていましたが、輸出向けのF-15を生産するために工場のラインが残されていたのです。
しかも、そこで生産されているF-15には段階的にいくつかの改良が盛り込まれていました。代表的なものでは、従来のF-15に搭載されていたものより低燃費な新エンジンへの換装や、機体の制御を電気信号にて行う「フライ・バイ・ワイヤ」システムの導入などです。
ところが、残っていた生産ラインは複座型の製造ラインだけでした。そこで国防総省は導入を急ぐという観点から、生産ラインをそのまま使える複座型のF-15EXだけ調達することにしたのです。
とはいえ、そのことにはメリットもありました。具体的には、アビオニクス(航空機向け電子システム)の小型化と自動化が進んだ結果、要求されていた「マルチロール機(多用途戦闘機)」としての能力が、単座機としても複座機としても達成可能な、いうなれば両面使いできるモデルに仕上がった点などです。
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F-15「イーグル」戦闘機は航空自衛隊でも多数運用している(画像:航空自衛隊)。
燃料や兵装なしの、クリーン状態における自重はF-15E「ストライクイーグル」より少し重くなっているものの、上昇限度である高度5万フィート(1万5240m)でマッハ2.493の最大速度を実測しています。これは、新型エンジンの搭載による推力向上と機体構造の強化による恩恵でした。F-15EXでは、重量が増えてもマッハ2.5級の性能を確保できたのです。
ほかにも、戦闘機用としては最高性能のレーダーを装備したことで、長大な探知距離と多目標に同時対処できる機能も兼ね備えました。このレーダーの探知距離は非公表ですが、かなり長いと現場の担当者が証言しています。
コックピットには高解像度スクリーンを2基備える一方、ヘルメット内表示の導入に伴いヘッドアップディスプレイが小型化され、これにより前方視界を改善しています。こういった部分は、第5世代戦闘機で実用化された技術がフィードバックされたからこそといえるでしょう。
兵装面では、従来のF-15に搭載できるミサイルの数は最大8発までだったのに対し、F-15EXでは12発まで携行できるようになっています。単純計算では5割増しです。
これが可能になった要因は「デジタルフライ・バイ・ワイヤ」の導入でした。これにより、従来のF-15では取り付けられなかった主翼の外側のパイロン(支柱)に兵器を吊り下げることで発生しやすくなる、フラッター(空力的な振動)を電子制御で抑えることが可能になったからです。
ほかにも、F-15EXでは極超音速ミサイルをふくめ、最長22フィート(6.7m)、重量7000ポンド(約3.2t)の兵器も搭載できるようになりました。イスラエル空軍では、すでに従来型のF-15で「ブルー・スパロー」「シルバー・スパロー」といった空中発射型の弾道ミサイルを運用していますが、米空軍でも同様の使い方ができるようになります。
つまり、B-52にしかできなかった任務の一部をF-15EXで代替することも可能になる、といえるでしょう。
ここまで優れているからこそ、F-15EXの愛称は「イーグルII」と、あえて従来モデルと差別化を図ったものになったといえます。とうぜん、米空軍の主力第5世代戦闘機であるF-35との相互運用性は盛り込み済みで、F-35はステルス性を維持するため自機のレーダーは使用せずに、同行するF-15EXがその強力なレーダーで索敵を行いデータリンクでF-35と連携するといったことが考えられています。
以上のような経緯で第5世代戦闘機F-35の生産と並行してアップデートされたF-15が生産されることになりました。第5世代戦闘機が計画されていた頃は誰も想像しなかったことが現実になったというわけです。