近年、日本との安全保障協力を深化させている国がカナダです。同国がなぜ日本との協力を深めているのか、在日カナダ大使館駐在武官のワット大佐にお話を伺いました。
中国や北朝鮮、ロシアといった国際的なルールの枠組みに挑戦する姿勢を見せる国々――それらに囲まれている日本にとって、国際的な協力体制の構築は、自国のみならず地域の安全を維持するために今や欠かすことができません。
日本と「カナダ」なぜ急接近? 安全保障「あれもこれも協力でき…の画像はこちら >> 2024年7月28日に実施された海上自衛隊とカナダ海軍との共同訓練の様子(画像:海上幕僚監部)
その文脈において、日本が協力関係を深化させている国の一つが、アメリカの隣国であるカナダです。その現状について取材すべく、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は在日カナダ大使館の駐在武官であるロバート・ワット海軍大佐にお話を伺いました。
カナダが日本と連携を深めている背景として、近年同国がインド太平洋地域に強い関心を示していることが挙げられます。その理由について、ワット大佐は次のように説明します。
「まず、カナダは日本と同じ太平洋に面した太平洋国家であるということがいえます。カナダの経済活動は、かつては大西洋方面において活発でしたが、現在では太平洋方面の比重が大きくなっています。そのため、カナダ政府は2022年に『インド太平洋戦略』を発表するなど、この地域におけるプレゼンス(存在感)を高めるよう努めています」
ここでワット大佐が言及した「インド太平洋戦略」において、カナダは日本との連携を強化することが盛り込まれています。その成果として、日加間の協力関係はより深まってきていると、ワット大佐は言います。
「日本は重要なパートナーであり、多くの面で協力関係を強化しています。その一例が軍事・安全保障面での協力です。現在、この分野における日加の関係は深化・拡大しています。たとえば、これまでよりも複雑な共同演習を実施したり、伝統的な海軍種同士の連携に加えた他軍種間協力の推進、また宇宙やサイバーといった新領域での連携も進んでいます」
2024年10月には、横浜港にカナダ沿岸警備隊の砕氷船「サー・ウィルフレッド・ローリエ」がはじめて寄港しました。これも、「日加の協力関係の新たな展開といえます」と話します。
また、ワット大佐によると、現在自衛隊が歩みを進めている統合運用についても、カナダ軍の取り組みは日本にとって大いに参考になるのではないかと話します。
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カナダ大使館の駐在武官であるロバート・ワット海軍大佐(画像:カナダ大使館)
「日本は現在、自衛隊の統合運用を強化しようとしています。来年には統合作戦司令部(JJOC)が創設されますが、カナダはこの統合運用能力について長年にわたり培ってきた多くの知見を有しています。これは、日本にとって有用だと考えています。たとえばアメリカは統合運用能力を有していますが、人員の数や組織の大きさが日本とは全く異なります。その点、カナダの統合運用能力は日本が目指すそれと規模感がマッチしていると思います」
さらに、海上自衛隊が2027年度から運用を開始する予定のイージス・システム搭載艦に装備される艦載レーダーの「SPY-7」は、カナダ海軍の新型戦闘艦であるリバー級駆逐艦にも搭載されることを踏まえ、ワット大佐は「ユーザーグループ」の立ち上げに言及しました。
「SPY-7は世界最新鋭の艦載レーダーであり、現在のところこれを艦艇搭載用に採用することを決定しているのはカナダ、日本、そしてスペインのみです。そこで、この3か国でSPY-7ユーザーグループを作るという計画があります。これにより、運用ノウハウや課題などを共有することができるのです」
このユーザーグループという発想は、何もSPY-7に限定されるものではないとのこと。「たとえば、我々はヘリコプターに関するユーザーグループ立ち上げについても提案しています」とワット大佐は説明します。
現在、カナダ軍ではベル412EPヘリコプター(カナダ軍ではCH-146『グリフォン』と呼称)を運用していますが、これは陸上自衛隊で運用が開始されたUH-2のベースとなっている機体でもあると言及。「カナダ軍は世界で最も多くのベル412を運用しており、そこで得られた運用経験や知見を共有することができます」と話します。
ベリコプター以外でも、たとえば「リバー級駆逐艦ではエンジンにロールス・ロイス製のガスタービンエンジンであるMT30を搭載します。このエンジンは、海上自衛隊の護衛艦でも採用されているものであり、こちらについては太平洋諸国間のユーザーグループ立ち上げについて検討しています」ということです。
このほかにも、カナダ軍ではF-35A戦闘機や、無人航空機のMQ-9シリーズなど、自衛隊ですでに運用実績のある装備を今後導入していく予定です。そこで、今後日本とカナダの防衛協力は、共通装備品のユーザーグループという側面からも深化していくことになるのかもしれません。