泥沼の戦争の遺恨ない? ベトナムが米国製軍用機を導入へ 対中国だけじゃない政治的思惑とは

自衛隊も採用を決めたベストセラー機です。
ベトナム人民空軍(以下、ベトナム空軍)は2024年11月20日、アメリカ製練習機T-6C「テキサンII」の納入式典を実施しました。
泥沼の戦争の遺恨ない? ベトナムが米国製軍用機を導入へ 対中…の画像はこちら >>ベトナムのファンティエット空軍基地に到着したT-6C「テキサンII」。カラーリングは青で、機首付近にはベトナム空軍のマークも入っている(画像:アメリカ空軍)。
T-6Cはアメリカ空軍と海軍で運用し、つい最近は航空自衛隊も初等練習機として導入を決めたプロペラ駆動の小型機です。ベトナム空軍に今回引き渡されたT-6Cは輸出用のモデルで、現時点で5機が引き渡されており、最終的には2025年までに12機導入する予定です。
ベトナムは社会主義国であることから、軍で使われている装備の多くはロシア(旧ソ連)製です。空軍の主力戦闘機は「フランカー」の愛称で知られるSu-30MK2やSu-27などで、アメリカ製の飛行機が配備されるのはベトナム戦争が終結した1975年以降、初めてとなります。
式典にはベトナム空軍トップのグエン・ヴァン・ヒエン中将のほか、アメリカ側からはマーク・ナッパー駐越大使やケビン・B・シュナイダー米太平洋空軍司令官らも参加。この顔ぶれを見ると、今回の導入がいかに特別な事例であったのかわかるでしょう。
今から半世紀ほど前、アメリカとベトナムは戦争をしていました。いわゆるベトナム戦争です。敵対関係にあったため、戦争終結後もアメリカはベトナムに対して武器禁輸措置をとっており、それがベトナム軍の装備がロシア製兵器一色になった最大の理由でした。しかし、その禁輸措置も2016年に全面解除が発表されています。
軍の近代化を進めるベトナムに対して、アメリカは自国製航空機の輸出提案をしており、このT-6以外にもF-16「ファイティングファルコン」戦闘機やC-130「ハーキュリーズ」輸送機といった機体の輸出が協議されています。
なぜ、ここにきて両国は急速に接近しつつあるのでしょうか。
アメリカが、かつての敵対国であるベトナムに武器を輸出するようになった理由のひとつに、中国の存在が挙げられます。ベトナムと中国は同じ社会主義国でありながら、中越戦争(1979年)を始めとしてたびたび軍事衝突を起こしています。
中国を安全保障上の脅威と考えるアメリカからすれば、ベトナムは「敵の敵は味方」という存在で、一連の武器輸出スタートもそれが理由のように思えます。しかし、どうもそれ以外にもアメリカ側の思惑が透けて見えるのです。
もうひとつ大きな理由、それはベトナムの著しい経済発展と、それに伴う市場規模の拡大があります。ベトナムは安い人件費によって製造業が好調で、急速な発展により個人の生活水準も向上しており、個人消費も増えています。
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式典参加者による記念撮影。ベトナム空軍の関係者の中に、シュナイダー米太平洋空軍司令とナッパー大使の姿も見える(画像:在ベトナムアメリカ大使館・領事館)。
このような経済発展によって、アメリカからすると魅力的な市場に映るようになったのは間違いありません。
ベトナムとアメリカの交流は現在、防衛以外にも政府・民間の各分野で進んでおり、2000年には通商協定を締結して、アメリカ系企業がベトナム市場に進出。2023年には、首脳会談を開催し、その関係を包括的戦略パートナーシップに格上げすることで合意しています。こうした動きを鑑みると、両国は前世紀の敵同士という背景から脱却し、新しい関係を構築しようと動いていると見て取れます。
「敵の敵は味方」というのは、一般的に共通の敵がいるという点が共闘する理由になっています。しかし、前述したように両国を取り巻く現在の関係はそんなに単純なものではありません。
ベトナムが経済的に力をつければ、先行する中国と同じく兵器の分野でも高性能かつ高価格なものを導入しようという機運が高まるでしょう。実際、陸軍はT-90戦車を、海軍はゲパルト級フリゲートを、空軍は前出のSu-35を調達しています。
こうした動きの中で、アメリカも新兵器を売り込むことができれば利益に繋がります。
日本もベトナムに対しては防衛装備品・技術移転協定を結び、2024年7月には中古車両の移転が決定しています。すでに施設作業車の運用でベトナム軍兵士が陸上自衛隊の施設学校に留学しています。
アメリカにとっては、T-6「テキサンII」を引き渡すことでロシア一辺倒をいくらかでも崩したい思惑があるのではないでしょうか。今後、外交政策に基づいて、ベトナムにはこれまでのロシア式とは異なる兵器の導入が進むのかもしれません。

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